シェールオイルにらみ原油減産見送ったOPECなど動向探る各誌
◆分かれたサウジ評価
ひと頃の高騰を思えば、最近は「安くなった」と思ってしまうガソリン価格。昨年7月には1㍑=160円だったのが、現在では120円台に低下し、“安心”して満タンを入れる客も増えたとか。消費者の関心はガソリン価格の動向だが、原油価格の急落は世界経済に大きな影響を及ぼしている。
そうした中で、経済3誌が相次いで「原油」についての特集を組んだ。週刊エコノミストは「とことん分かる原油安」(2月3日号)、週刊ダイヤモンドが、「世界を揺るがす原油安超入門」(2月7日号)、週刊東洋経済が「原油安ショック 世界経済波乱の前兆か」(同号)という見出しで、最近の急落する原油価格の動向を分析するとともに原油安が世界経済に与える影響について報告している。
今回の原油安の原因は、米国のシェール革命による原油の供給増とOPEC(石油輸出国機構)の減産見送り、さらに中国経済の成長鈍化などによる需要減だといわれている。そこで経済誌はこぞって、原油を取り巻く世界の現況と価格決定の“カラクリ”や、原油生産国および市場が歩んできた石油史を細かく分析している。
例えば、ダイヤモンドは「シェールオイルの大増産で供給量が増えたとしても、中東を中心とした産油国12カ国でつくるOPECが生産調整で減産して、需給を調整すれば、価格下落に歯止めをかけることができた。しかし、そうはならなかった」と疑問を投げかけ、その答えとして、「昨年11月のOPEC総会でサウジアラビアの主導によって減産が見送られた。…。今回、OPECはその調整機能を自ら放棄したわけで、市場からの信頼を完全に失った」と結論づけている。
これまでOPECは原油価格の調整機能役を果たしてきた。ある意味でそれがエネルギー価格を維持させ世界経済の動向の一役を担ってきたともいえるのだが、そうしたOPECの役割が今後も期待できるのか。非OPEC加盟国の動きに加えて米国のシェールオイルの出現は市場においてOPECというカルテルを崩壊させ、新しい“世界(市場の創造)”をもたらしたと分析する。
もっとも、エコノミストはこうした見解に反論するかのように、「サウジアラビアは豊富な財政余剰資金を保有し、一定期間の低価格を耐え忍ぶだけの体力を備えている。サウジアラビアは今なお、マーケットメーカーとしての影響力を行使している。今後の国際石油市場を巡っても、サウジアラビアの対応が決定的に重要な要因であることは変わらない」(小山堅・日本エネルギー経済研究所主席研究員)とサウジアラビアを盟主とするOPECの影響力を誇示するが、それでもシェールガス・オイルの出現は原油市場にとって大きなインパクト要因であることは間違いない。
◆業界への痛手を指摘
一方、経済各誌は原油安がもたらす「負の連鎖」について取り上げる。原油が安くなれば、ガソリン価格が下がり消費者にとってはうれしい限りだが、石油元売り業界にとっては頭の痛いところ。高値で調達した原油の在庫に巨額の評価損がでるからだ。「1バレル=50㌦の原油価格を前提にした場合、最大手のJXで約2000億円、出光興産以下の4社でも500~1000億円の評価損がでる」(東洋経済)という。
そういう意味では石油開発会社や商社にとっても原油の急落は大きな痛手となる。さらに原油が安くなれば、代替エネルギーの開発にも少なからぬ影響が出ることは必至。ダイヤモンドやエコノミストは、「(水素自動車などの)燃料電池車の開発」や「北極圏などの極地の資源開発」にブレーキがかかるか、さもなければストップするだろうとの見解を述べる。
ただ、原油が限りある資源であることは周知の事実。一定期間安値が続いたとしてもいずれ高値になる。ましてや原油は投機の材料になっているのを見れば、原油に依存しないエネルギー資源の開発は不可欠である。
◆気になるロシア情勢
ところで、今回の原油安の影響を最も強く受けているのがロシア、中東などの原油輸出国。とりわけロシアは原油、天然ガス関連の収入がGDP(国内総生産)の約1割、輸出に占める原油・天然ガスの比率が約7割と非常に高く、原油安によって深刻な景気後退とインフレ、それに伴うルーブル安が進んでいる。
仮にロシア経済が原油安によって危機に陥れば、それは即世界経済に波及することになる。まさに今年は原油の動向から目が離せない。
(湯朝 肇)