各紙とも産経前支局長起訴は韓国の国際イメージを傷つけると指摘
◆人権侵害する朴政権
報道、言論の自由が民主主義の根幹をなすものであることは、今さら言うまでもないことである。米国の第3代大統領のジェファーソンは「新聞なき政府か、政府なき新聞か、いずれかと問われれば私は迷わずに後者を選ぶ」と語ったことはよく知られている。言論の自由とはそれほどのものである。
だから、今月8日に韓国の検察当局が、産経新聞ソウル支局の加藤達也前支局長を、情報通信法に基づく名誉毀損(きそん)罪で在宅起訴したことに対して、当の産経だけでなく、各紙はもとより日ごろ産経と論調で対極の立場から激しく言論戦を繰り広げる朝日新聞までが産経擁護、韓国政府に辛辣(しんらつ)な論調を一斉に展開したのは当然のことだ。韓国は、ことが言論弾圧に相当し、国際社会で重大なイメージ悪化を招くことを冷静に深慮しなかったようで、大きな判断ミスをしたと言う他ない。残念なことである。
加藤前支局長は8月に、朴(パク)槿恵(クネ)大統領の動静に関する記事を朝鮮日報のコラムなどを紹介して書き、同紙のウェブサイトに掲載された。その中で、4月の旅客船沈没事故の当日、朴氏が一時「所在不明」だったとされることのうわさに言及したことで、市民団体が刑事告発していたのである。このため、ソウル中央地検が数回にわたる事情聴取を行い、60日以上にわたって出国禁止措置がとられた上に、起訴後もさらに出国禁止が継続されている。基本的人権も著しく侵害されていると言わなければならない。
◆朝日含めて韓国批判
今回は当事者の産経(9日・主張)を除いて各紙の論調をウオッチしていく。
まず産経の論敵である朝日(10日)。「産経記者起訴/大切なものを手放した」とタイトルこそソフトだが、社説は手厳しい。「韓国の法令上、被害者の意思に反しての起訴はできないため、検察の判断には政権の意向が反映されたとみられる。/その判断は明らかに誤りだ。報道内容が気にいらないからといって、政権が力でねじふせるのは暴挙である」と断じたのである。
問題の背景に「産経新聞や同じ発行元の夕刊紙が、韓国を批判したり、大統領を揶揄(やゆ)したりする記事を掲載していることに不信の念を抱いていた」ことがあると言及。今回の措置が言論の自由を脅かしただけでなく、韓国が近年、G20サミットや核保安サミットの開催などで着々と築いてきた世界での存在感に触れ「そんな国際社会でのイメージも傷ついた。/かけがえのない価値を自ら放棄してしまったという厳しい現実を、大統領自身が真剣に受け止めるべき」だと結んだ。
「報道の自由侵害と日韓関係悪化を憂う」(10日)のタイトルを掲げた日経も同様の論旨だ。「報道の自由を規制する動きは、韓国の対外的なイメージを大きく傷つける。韓国はそのことを肝に銘じるべきだ」「韓国では、産経新聞は慰安婦問題を含めて同国に最も厳しいメディアとして知られる。……意趣返しの意図も込めて前支局長を在宅起訴したのなら、とんでもない話だ」と迫る。そのうえで「こうした動きは日本の『嫌韓』の流れを助長し、関係修復を一段と厳しくしてしまう」と諌(いさ)めたのである。
読売と毎日(ともに10日)はタイトルからも厳しい批判を突きつけた。それぞれ「韓国ならではの『政治的』起訴」「韓国の法的感覚を憂う」を掲げた。
読売は冒頭から「民主主義国家が取るべき対応からかけ離れた公権力の行使」で「報道への圧力は、到底容認できない」と迫った。そのうえで「報道の自由は、民主主義社会を形成する上で不可欠な原則だ」「民主政治が確立した国では、報道内容を理由にした刑事訴追は、努めて抑制的であるのが国際社会の常識」と説いた。60日以上の出国禁止処分も「移動の自由という基本的人権を侵害している」と明確な批判を展開。「起訴の強行は、外交問題に発展し、日韓関係の修復を一層難しくしかねない」と警告した。同感である。
◆協会声明を支持する
在宅起訴を「国際常識から外れた措置」だとする毎日は「懲罰的に公権力を発動するやり方は、言論の自由をないがしろにするものにほかならない」。「国際社会における韓国のイメージはひどく傷ついてしまうのではないか」と訴え、韓国社会に冷静な判断を求めた。
小紙(11日)も新聞協会などの「起訴強行に強く抗議」し「自由な取材・報道活動が脅かされることを深く憂慮する」声明を全面支持。韓国は、今回の措置が何一つ韓国に益をもたらさないことを悟らないといけない。
(堀本和博)