言論規制でガス抜きの思惑が濃厚な朝日「第三者委員会」の虚報検証
◆不可解な初報の特定
「内容は自信を持っている」。慰安婦問題の虚報をめぐって朝日の木村伊量(ただかず)社長は9月の謝罪会見でこう述べた。「吉田証言」を取り消した慰安婦特集(8月5、6日付)についてだ。ところが、朝日はその自信の作の一部を9月29日付で「おわびして訂正します」とした。
特集では韓国・済州島で女性を強制連行したとする吉田清治氏(故人)の証言を虚偽だと判断して取り消したが、その初報(1982年9月2日付大阪本社朝刊)を大阪社会部の記者としていた。この元記者(66)は特集で「(吉田氏の)講演での話の内容は具体的かつ詳細で全く疑わなかった」と述べている。
ところが、その後、元記者の海外への渡航記録を調べたところ、国内にいなかったことが判明し、記憶違いだったことが確認されたというのだ。朝日は大阪社会部にいた別の元記者が「吉田氏の記事を書いたことが一度だけある。初報は自分が書いた記事かもしれない」と名乗り出ているとしている。
それにしてもお粗末な話だ。最初に書いたとした元記者は、聞いてもいなかった吉田氏の講演を「全く疑わなかった」とリアルに語っている。これも立派な虚偽発言だ。おまけに名乗り出た元記者は「自分が書いた記事かもしれない」と曖昧に述べている。
「かもしれない」とは、その可能性があるが確かではないという意味だ。つまり朝日は確かでない話で、わびて訂正しているのだ。何とも不可解な姿勢である。
現代史家の秦郁彦氏は産経10月7日付「正論」で、「書いたのは私ですと確定してからでも遅くないと思えるが、朝日は97年3月の検証特集でも、吉田証言は疑わしいとしても『真偽は確認できない』とぼかした前歴があるから、同じ手法かもしれない」と、朝日一流のまやかしと推測している。
◆自社寄りの委員人選
木村社長は慰安婦問題の虚報を第三者委員会で検証するとしていたが、ようやく7人の委員の顔触れが決まった。だが、これも怪しい。この人選について朝日の内部を知り尽くすOBの青山昌史氏は本紙で「バランス欠く構成」と指摘している(10日付)。
青山氏によれば、委員のうち筑波大名誉教授の波多野澄雄氏はアジア女性基金の専門委員を務め、慰安婦には強制性があったとする。ノンフィクション作家の保阪正康氏もこれに近く、東大大学院教授の林香里氏は朝日ジャーナリスト学校研究員を務め、ジャーナリスト田原総一朗氏は週刊朝日やテレ朝に番組を持つ。つまり、委員の過半の4人は思想や利害で「朝日寄り」なのだ。
残り3人のうち、外交評論家の岡本行夫氏は集団的自衛権では朝日と対立しているが、外務省OBとしてまず中立。国際大学長の北岡伸一氏は読売にもよく書き、慰安婦問題で韓国に批判的。この2人でバランスをとり、委員長には中立を標榜(ひょうぼう)する元名古屋高裁長官の中込秀樹氏を据えた。こう青山氏は見ている。
第三者委は社内関係者に聞き取り調査を行うほか、取り上げるテーマによっては前掲の秦氏らの意見も聞くという。どうやら朝日は、批判的な意見はガス抜きよろしく聞きっぱなしにし、検証結果は朝日寄りにうまく誘導する。そんな思惑が読み取れる。
◆「証言」以外は封印か
同委の初会合は9日に開かれ、木村社長は「忌憚ない批判と提言を」と検証を委嘱し、これを受け中込委員長は「場合によっては、新聞社自身を解体して出直せということになるかもしれない」と挨拶した。初会合の冒頭部分は公開したが、今後の審議は非公開。中込委員長はメディアに対して報告書が提出されるまで委員に取材するなと言論規制までかけた。「知る権利」を自ら断ち切ろうとする、言論界にはなじまない態度である。
初会合を伝える朝日10日付は「吉田証言」の関連記事12本の一覧表を載せている。どうやら朝日は「吉田証言」に論議を絞らせ、慰安婦証言をめぐる記者の疑惑や強制性、慰安婦と挺身(ていしん)隊の混同などの疑問は封印するつもりらしい。
ここから浮かんでくるのは「吉田証言」は虚報だったが、「強制性はあった」という筋立てだ。それをもって朝日の慰安婦報道を正当化しようとする魂胆が透けて見える。
(増 記代司)