中韓「反日連合の弱点」特集した新潮に足りない大きな視点での解明
◆中韓で火種は不問に
中韓首脳会談が行われるタイミングで、日本では集団的自衛権行使容認の閣議決定が行われ、日朝協議も進められた。朴槿恵韓国大統領が習近平中国国家主席を大歓待し、「中韓蜜月」を演出しようとしていた矢先のことで、彼らが苦々しく見守ったのは言うまでもない。東アジアは従来の枠組みが歪(ゆが)み、崩れていくような激動の時を迎えている。
中国国家主席がかつて「血盟」と呼んだ北朝鮮より先に韓国を訪問したのは初めてのことだ。韓国は米国と軍事同盟を結び、日本とは自由民主主義、資本主義の価値を共有する隣国である。米国を軸に日本と韓国は北朝鮮、中国、ロシアの「共産主義陣営」と対峙(たいじ)してきたはずだった。
だが、就任以来1年半の間に、日本の安倍晋三首相とは一度も会わないのに、5回も首脳会談を行うほどに習主席と朴大統領は関係を深め、「歴史上もっとも良好な関係」を自慢している。日米が「韓国が中国に取り込まれる」と懸念を示すほどだ。
しかし、これには誰もが首をひねる。南北同族が血で血を洗った韓国動乱で、北を応援して人民解放軍を投入し、米韓軍を押し戻したのは中国ではなかったか。疑問はそれだけではない。
週刊新潮(7月17日号)は「『中国・韓国』反日連合の弱点」という特集記事で、「にこやかに握手したその手で両国にとって『不都合な真実』を握り潰している」事例を挙げている。
その一つが「高句麗論争」。これは中国が高句麗を「中国史の中の地方政権」と位置付けたのに対して、韓国が自国の歴史であると猛反発したものだ。「歴史の捏造(ねつぞう)」にはとりわけ敏感な両国のことだから、いったん、これに火が付けば、「歴史泥棒」とお互いを罵り合うことになるのだが、中韓首脳会談では「不問」に付された。
それだけではない。同誌は「漁業問題」「防空識別圏」「領土問題(離於島)」「南北統一をめぐる思惑」「中国から飛んでくるPM2・5」を挙げて、「首脳会談では、一切、議題に上がらず『封印』された」と書いた。なるほど、「一皮むけば…」という関係なのだ。
◆日本軍供述書の欺瞞
しかし、読者の視点に立てば、それだけの不都合がありながら、それに目をつぶってまで中韓が「蜜月」を演出する理由は何か、に関心が向く。そこには東アジアに起こっている巨大な地殻変動があるわけだが、せっかくの中韓首脳会談をきっかけとした特集で、そうした大きな視点での分析がほとんどないのは物足りない。
それなら、むしろ「都合よく『日本軍供述書』を公表した中国のインチキ」をもっと詳しく過去の経緯も含めて書き込んでほしかった。
中国が反日攻撃の材料として出してきた「日本軍供述書」は「いわくつきの“代物”」だという。「中国側の意に沿う供述が得られるまで何度も書き直させて、気長に“告白”」させた「虚実ないまぜの資料」だという。1998年に「日本人ジャーナリスト」によって報じられたが、当時、中国政府自身は「無関心を装い」「部外者のスタンス」をとっていた、という胡散(うさん)臭い資料だ。
このタイミングで中国が再度持ち出したのは、同資料を今度は自身が「日本貶(おとし)め」に使おうとしているからだろう。中韓に封印した不都合があることよりは、この資料の欺瞞(ぎまん)性追及に重点を置いた特集の方がよかったのではないか。
「慰安婦」問題も、詳しい資料が出てきて、また、「河野談話」作成過程が明らかにされて、はじめて分かることがある。一方的な材料で責められるだけではお互いにプラスにはならない。「軍供述書」も同じような資料にならないためにも、早いうちに解明しておくべきものだろう。
◆飽きられる反中・韓
いまでは単純な「反中・反韓」は読者に飽きられている。食傷気味だと言っていい。それよりも、いま知りたいのは、なぜ中国政府・韓国政府は反日政策を取るのかだ。中国・韓国側に立った視点で解明するのも一つの方法で、日本人からは見えないものが見えたり、気付かないものを気付かせてくれる。
同様に、一方的な資料や観点で凝り固まった中国人や韓国人に「正しい情報」を伝えることにも、日本のメディアとして力を入れてもいいのではないか。「反中反韓日本人」を作るよりも、「知日中国人韓国人」を作る方がよほどプラスである。たとえ彼らが「隠れ」であったとしてもだ。
(岩崎 哲)