「『新聞記者』は死んだ」とし調査報道など望めぬ現状を伝えるポスト

古いカメラのイメージ

ニュース速報で後れ
 動画配信サービスで「新聞記者」というドラマが話題になっている、という。米倉涼子演じる記者が政府公文書改竄(かいざん)事件を追究するドラマだ。すでに映画にもなっており、主人公の女性記者を韓国女優のシム・ウンギョンが演じた。訛(なま)りのある日本語に違和感があり、どうしてこのキャスティングをしたのか分からない。

 いずれも東京新聞記者の望月衣塑子の原作を映像化したものだ。社会部所属でありながら、政治記者が出入りする官邸会見室で、当時官房長官だった菅義偉としたやりとりが話題にもなった。

 新聞記者のイメージは権力を監視し、世の中の不正を暴く「社会の木鐸(ぼくたく)」だ。地道な取材と裏付け、二重チェックを経て、事実を報じていく。言論の自由、不偏不党、公正な報道がベースになっている、と漠然と信じられている。

 週刊ポスト(2月18・25日号)がそんな新聞記者の現状を取り上げた。「『新聞記者』は死んだ」という刺激的な見出しだ。「ドラマで描かれる世界はいまや過去の話だった」と、イメージをひっくり返す話をしている。

 まず、新聞を取り巻く環境が大きく変わった。インターネットの普及で、ニュース速報で後れを取るようになったのだ。そのため、新聞社もウェブサイトを持ち、インターネット交流サイト(SNS)に展開せざるを得なくなっている。これまで朝刊に載せていた記事をその日のうちに自社サイトに上げる。朝刊に載る記事は新聞でなく「旧聞」になるからだ。

 とにかく「速報性」が求められる。ドラマで描かれるような「あんな調査報道はなかなか難しくなった」と大手紙の第一線記者が同誌に語っているように、一つの話題を時間をかけて追究していくことができなくなった。

デジタルで生き残り

 次に同誌が指摘するのが「署名記事」が目立つようになったこと。記者のタレント化である。読者はネットで記者の名を目にして、関心を持てば、同じ記者の記事を追い掛けるようになる。ネットの特性上、関連記事やリンクで誘導される。PV(ページビュー)を増やそうという仕組みだ。

 なぜPVを増やすか。広告収入もあるが、何よりサイトの有料会員化するためだ。今日本の新聞購読者数は年々数十万単位で減り続けている。毎年1社以上の地方紙が潰(つぶ)れている計算だ。若い世代は購読しないし、新聞自体を読まない。「ニュースはネットで」が常識で、ポータルサイトで済ませてしまう。しかも、これは無料だ。

 これが新聞社の経営を圧迫している。それでデジタル戦略に切り替えているのだ。朝日新聞のケースについて、「編集局の傘下にも、デジタル機動報道部の他に、コンテンツ編成本部(元「デジタル編集部」)もあり、デジタル部門が乱立している」と同誌は紹介する。デジタルで生き残ろうと必死なさまが伝わってくる。

 また、記者の取材スタイルも大きく変化してきた。SNSを利用するのだ。ツイッターやフェイスブック、インスタグラム、さらには動画投稿サイト・ユーチューブなどに上げられた話題を“後追い”し、追加取材して記事にする、いわゆる「ネットで拾った話題」だ。さらに多くのメディアは読者の情報提供、要するにタレ込みに頼るようになっている。しかし、これではジャーナリズムの質の低下は避けられない。調査報道などもう望むべくもないという話なのだ。冒頭の「過去の話」とはこのことである。

まだ見えない将来像

 そういう、週刊誌の生き残り戦略はどうなのか。主な読者層である「高齢者」を対象にした老後、年金、健康といった記事ばかりが並ぶ。権力の不正や社会悪を追究する記事はめっきり減った。鳴るのは「文春砲」ばかりだ。

 これまで新聞や週刊誌が担ってきた役割をデジタルが代替できるか、というと、まだその将来像は見えてこない。米ウオーターゲート事件を暴いた「大統領の陰謀」(1976年)や日航機墜落事件(1985年)を題材にした横山秀夫の小説「クライマーズ・ハイ」は、もはや“古典”になってしまった。(敬称略)

(岩崎 哲)