中国恒大集団デフォルト危機、きれい事過ぎて腑に落ちない東京社説
金融恐慌を招く懸念
先月下旬は株式投資家にとって、肝を冷やす日が続いた。
20日以降、世界の証券市場は大きく揺れた。
上昇基調にあったニューヨーク証券市場は4カ月ぶりに最大幅の下落傾向を示し、日欧の証券市場だけでなく、国際原油価格やビットコインなども下落を余儀なくされた。
国際金融市場の震源地となったのは、中国の大型不動産開発企業の恒大集団だった。
同社の負債総額は中国国内総生産(GDP)の2%に当たる33兆円に達し、手持ちのキャッシュは約1兆6000億円未満でしかなく、さらに巨額の利子償還期限が間近に迫っていることから、デフォルト(債務不履行)懸念が高まった事情がある。
大手各紙は社説を張り、「恒大経営危機 国際連携で事態収拾を」(東京9月23日)「世界の市場に混乱を広げるな」(読売24日)「世界市場への波及防止を」(毎日26日)などと、国際的な金融危機に発展しないように、主要国が連携して早期の火消しに動くよう促した。
2008年のリーマン・ショックのような金融恐慌を招くようなことになっては、新型コロナウイルスの世界的な蔓延(まんえん)で世界経済が多大なダメージを被る中、致命傷にもなりかねないとの懸念があってのことだった。
リーマン・ブラザーズは、負債総額約64兆円という米国史上最大の企業倒産だったことにより、世界連鎖的な信用収縮による金融危機を招いたが、恒大をリーマンにしてはならないというものだ。
危険はらむ理財商品
東京の社説では「(恒大集団は)天文学的な額の負債を抱えており、破綻すれば景気悪化の国際的連鎖を引き起こしかねない。中国は主要国と連携を取り危機回避に全力を傾けるべきだ」と主張した。
これは一見すると正論にも見えるが、きれい事過ぎてストンと腑(ふ)に落ちることがないオピニオン、というのが実感だ。
というのも恒大危機はダイナミックな拡大路線を突っ走った特異な一企業の破綻リスクというよりは、チャイナリスクそのものの本質を露呈させる問題でもあるからだ。
そのチャイナリスクの一つが庶民を巻き込んだ理財商品の存在だ。
これは中国国内で販売されてきた高利回り資産運用商品だ。「理財」は中国語で資産運用の意味だが、元本保証されていないものが多い。
上限規制があってうま味が乏しい中国の預金金利より高い利回りが提示され、国内投資家や国有企業などの巨額資金がどっと流入してきた経緯がある。
銀行の正規融資を受けられない中国の中小企業や不動産開発会社などに対し資金を貸し付け、投融資先の債券や貸出債権を小口化して販売するなど、代表的なシャドーバンキング的商品となっている。
恒大集団本社に押し掛けて抗議デモを展開している中国人の多くは、この理財商品を購入した人々だ。
巨大企業デフォルトのつけを払うのが、こうした理財商品を購入した庶民でもあるという構造がある。
規制強化で収益悪化
また、強力な国家支配権を持つ政権の強権体質が、経済政策の柔軟な適応力をそぎ落とし硬直化させてしまうという一党独裁国家の体質的チャイナリスクも存在する。
今回の恒大集団デフォルト危機は、供給過熱による不動産市況の悪化という基本構造だけではなく、格差を是正し「共同富裕」を掲げる習近平政権が、投機マネーを吸い上げ貧富の差を広げる要因ともなってきた不動産価格の高騰を抑え込むため、土地取引規制策を打ち出したことで、急速な収益悪化を招いた結果でもあった。
こうしたチャイナリスクをヘッジする基本がなければ、対症療法的な手当てをいくら施しても第2、第3の恒大集団が出てくるのは目に見えている。
(池永達夫)