女性を家庭の外の仕事にかり出し「マタハラ記事」載せる毎日の矛盾
◆「敵は会社」毎日も?
「マスコミ業界 マタハラの実態」。毎日2月24日付夕刊「特集ワイド」からこんな見出しが目に飛び込んできた。マタハラとは、マタニティーハラスメントのことで、「妊娠、出産はもちろん、広くは育児中の働く女性へのいやがらせ」を意味するそうだ。
紙面には「激務強要、もしくは『休んでろ』」「本当の敵は会社」「陰で『あいつのキャリア』は終わった」と過激な見出しが並ぶ。新聞や雑誌記者などマスコミ業界で働く女性による座談会で、「マタハラの実態」(それも陰湿な)が赤裸々に語られており、読めば怖くなる。
「マスコミには子持ち女性が働きやすいような環境が少ない。そこにはバブル世代前後の年配女性たちがいて、席が空かない」といった嘆き節も。記事の末尾には「女性登用を唱える安倍首相に全部伝えて、問題を正してもらいますか!」とあった。
思わず笑ってしまった。その2日前の毎日22日付社説が「女性進出の理念 『男女共同参画』土台に」と“きれい事”が書き連ねられていたからだ。「(社会進出を)後押しする制度改革を伴わなければ、実現はおぼつかない」「少子化対策のためにも女性が育児と仕事を両立できる環境づくりが急がれる」などと矛先を安倍政権に向けていた。
女性記者らが言う「本当の敵は会社」に毎日が含まれるのか知らないが、「安倍首相に全部伝えて、問題を正してもらいますか!」と凄(すご)んでいるところを見ると、よほど会社や上司に失望している。
◆長谷川氏批判の誤り
それはともあれ、マタハラ座談会と社説のいずれにも登場するのが、長谷川批判だ。NHK経営委員の長谷川三千子氏が産経「正論」(1月6日付)に執筆した「『当たり前』を以て人口減を制す」とのコラムをヤリ玉にあげている。2月初めには国会でも公明党議員が問題視し、これを琉球新報5日付は「NHK委員が持論 『女性働ける社会は誤り』」と大きく報じた。
だが、本当に長谷川氏は「女性働ける社会は誤り」と言っていたのか。氏自身は埼玉大学で教えながら一男一女を育てた「働く女性・母親」だったから、信じ難い。それで「正論」を読み返してみたが、そんな記述はどこにもない。
長谷川氏は人口減少の解決法はいたって簡単だとし、「日本の若い男女の大多数がしかるべき年齢のうちに結婚し、2、3人の子供を生み育てるようになれば、それで解決」と論じる。以前は当たり前の話で、それを突き崩し、個人の生き方を変えさせたのは、男女共同参画社会基本法が「性別による固定的な役割分担」を否定したからだという。
「(性別役割分担は)哺乳動物の一員である人間にとって、きわめて自然なものなのです。妊娠、出産、育児は圧倒的に女性の方に負担がかかりますから、生活の糧をかせぐ仕事は男性が主役となるのが合理的です。ことに人間の女性は出産可能期間が限られていますから、その時期の女性を家庭外の仕事にかり出してしまうと、出生率は激減するのは当然です」
このように「妊娠、出産、育児」の期間には仕事は「男性が主役」が合理的で、女性を家庭外の仕事にかり出すなとしている。つまり「専業主婦狩り」を批判するもので、どこにも「女性働ける社会は誤り」とは述べていない。
この考えは国民から乖離(かいり)していない。内閣府世論調査(2012年12月)では「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」に賛成した人が51・6%と過半数を超えた。とりわけ20代で増えた。
◆政府調査に朝日の嘘
長谷川氏のコラムを最初に問題視したのは朝日1月28日付で、同調査も取り上げたが、主婦賛成派の増加を「体を壊すほど働いても月収10万円という若者も多い。厳しい現実への反動」(大学助教授)と書いた。だが、これは嘘(うそ)っぱちだ。
内閣府の「少子化社会白書」(08年版)によれば、出産を機に仕事をやめた女性の52%は「家事・育児に専念するため自発的にやめた」と答えており、多くの女性は子育ての喜びに価値を置いている。
それを毎日と朝日は家庭外の仕事にかり出そうとする。これこそ「妊娠、出産、育児」に専念する女性への嫌がらせで、堂々のマタハラ記事だ。
(増 記代司)