製造業で相次ぐ検査不正に「日本のものづくり」へ警鐘を鳴らす日経

◆新体制に厳しい評価

 鉄道車両向け装置の検査不正問題など一連の不祥事を踏まえ、三菱電機が社長交代を発表した。発覚した製造現場では約35年にわたって検査不正が行われてきたといい、背景に内向きな企業風土の問題も指摘されている。

 三菱電機の社長交代を受け、社説で論評を掲載したのは日経と読売の2紙。見出しを記すと、7月29日付日経「製造業は品質管理体制の再点検を急げ」、31日付読売「三菱電機新体制/閉鎖的な風土を改められるか」である。

 文字通り、読売は三菱電機一社の不祥事と新体制の課題を取り上げ、日経の方は、同社を含め、日本の一流企業で相次いだ検査不正の原因と対策を論評している。

 読売だが、同紙は社長就任会見で「危急存亡の時に直面している」と強調した漆間啓新体制について、「抜本的な改革への具体的な道筋は見えてこない」と断じる。

 漆間氏が社長就任前、前社長の杉山武史氏に次ぐナンバー2の立場にあったこと、また2017~19年度に不正検査が行われていた社会インフラ事業部の責任者を務めていたことなどから、「危機対応の人事としては疑問符も付く」とした。「責任者でありながら現場の不正を見抜けなかった」のだから、同紙の手厳しい評価も当然である。

 三菱電機は、自動車など大手メーカーで不適切検査が相次いだ16年度以降、3度も社内点検をしながら、今回の不正を見逃したほか、子会社を含めて製造現場の不祥事が続発。さらに過労やパワハラによる社員の自殺なども次々と明るみに出ている。

 同社では今回、外部の弁護士らによる調査委員会が、全事業部門の全社員を対象に、別の不正がなかったか調べ、自ら申告した社員は処分しないという。

 読売は「すべての社員が信頼回復の最後のチャンスと捉え、調査に全面的に協力するべきだ」としたが、三菱電機が今のところ、品質担当の幹部を新たに選任することや、内部人材で固めていた執行役に外部からの登用を進める意向であることぐらいしか分からない現状では、物が言いにくい閉鎖的な企業風土を改めるには、そうとしか言うようがないであろう。

◆「品質への過信」指摘

 不正検査では今回の三菱電機にとどまらず、京セラや日産自動車、神戸製鋼所などでも近年相次ぎ、またトヨタ自動車の販売会社では車検をめぐる不正などが明るみになった。いずれも日本を代表する名門企業による不祥事である。

 こうした品質検査をめぐる不正が相次ぐことに、「事態を放置すれば日本のものづくりへの信頼を失いかねない危機的な状況だ」と懸念を強めたのが、日経である。

 同紙は、不正の手口は会社ごとに異なるが、「いくつかの共通項が浮かび上がる」として、次の点を指摘する。

 一つは、品質への自信が「少しくらい検査を怠っても」という過信に変わっていたこと。工場の現場が強い権限を持つあまり、本社から不正を見抜きにくい体質が生まれていた、という。

 もう一つは、これとは逆の問題で、トヨタの販売会社の車検不正のように、人手不足に悩む現場と、そんな実態におかまいなしに販売目標を押し付ける本社との乖離(かいり)である。日経は、「働き手が減少していく日本では、どの会社でも起きうる問題だと受け止めるべきだ」としたが、さすがに経済紙である。

◆IoT活用など提案

 同紙はメーカー各社に対し、「企業規模の大小を問わず、品質を巡る管理が適正に行われているか、もう一度総点検を求めたい」と指摘。

 また、その際、性善説に基づく社員への聞き取り調査だけでは不十分で、第三者の視点を入れることが不可欠であるとし、さらにあらゆるモノがネットワークにつながるIoT(モノのインターネット)技術を活用し、センサーを使った品質検査の監視などの導入も提案する。参考となる指摘が少なくなかった。

(床井明男)