菅義偉政権初の「骨太の方針」を前向きな提言で後押しした日経社説
◆コロナ後の施策重視
政府が経済財政運営の基本方針「骨太の方針」と成長戦略を決定した。菅義偉政権としては初のもので、今年の骨太方針は「経済安全保障の確保」を初めて明記。新型コロナウイルス感染収束後を見据えた新たな経済成長に向けては、脱炭素化など4分野に重点投資する方針を掲げた。
新聞ではこれまでに4紙が社説で論評を掲載した。見出しは次の通りである。19日付読売「目標の羅列では意味がない」、20日付産経「コロナ克服の確信持てぬ」、日経「官民の賢い投資でコロナ後の成長探れ」、21日付毎日「不安に応える展望を欠く」――。
厳しい論調が多い中、日経が前向きな提言を掲げて菅政権を積極的に後押しする論調が目を引き、好感が持てた。
もちろん、日経にも他紙と同様、厳しい指摘は少なくない。「コロナ禍に翻弄されたこの1年余りで、日本の感染症対策のお粗末さが浮き彫りになった」「ワクチンの接種、病床や医療従事者の確保、保健所に対する指揮系統の明確化は待ったなしの課題だ」「骨太の方針に美辞麗句を並べても、迅速・確実に実行できないのでは意味がない」などである。
それでも、日経が目を引いたのは、だからこそ、「同じ過ちを繰り返さぬよう、必要な法整備や体制作りに万全を期してほしい」と前向きに叱咤(しった)激励するのである。
また読売や産経が批判した、コロナ後を見据えた成長戦略の「目標や政策の羅列」について、同紙は「感染症対策に負けず劣らす重要である」と指摘。ワクチンの接種率が上がり、経済社会活動の正常化が進むにつれて、「政策対応の軸足もおのずと変わらざるを得まい」として、「骨太の方針がコロナ後のビジョンに多くのページを割いたのは理解できる」と評価した。
「総花的な施策を並べた印象は拭えない」としながらも、「グリーン化の優先順位ははっきりしている」として、約2兆円の基金も活用して効果的な投資を集中的に進める必要があると強調する。同感である。
また、同紙は電子政府の実現を急ぐことや、経済安保の観点からの供給網の再構築を挙げ、産経なども指摘するように、不要不急の施策を排除し、限られた財政資金を優先課題に重点配分すべきだとした。が、同紙はさらに、「国が全てを賄うのではなく、上場企業だけで100兆円を超える手元資金などを活用する手もあろう」と、社説見出しに掲げた内容を望ましいとした。他紙にはなかった、妥当な主張である。
◆踏み込み不足を指摘
読売や産経の批判は確かに尤(もっと)もで、「(コロナ後の重点投資4分野の)方向性は妥当だが、内容は各省庁の従来施策の寄せ集めで、踏み込み不足と言わざるを得ない」(読売)との指摘は頷(うなず)ける。
また、気候変動対策について、読売が電力自由化の影響で経営余力に乏しい電力会社に投資を促す方策や、二酸化炭素を出さない原子力発電所の再稼働に向けた政府の役割は明示していない、としたのも、確かにその通りである。
読売、産経が「首相が目指す日本のあり方が、国民にしっかり伝わるような骨太の方針にすることが望まれる」(読売)、「菅義偉政権が目指すべき国家像を明確にした上で、実効性のある施策を峻別(しゅんべつ)し、確実に具体化することが大事だ」(産経)としたのは保守系紙らしい主張である。
ただ、提言の前向きさ、提案の具体的さという点では日経の方が何枚も上手であった。
◆毎日の批判は逆効果
毎日はいかにも左派系紙らしい批判で、「成長頼みに陥らず、所得再分配を通じた格差の是正に本格的に取り組む時だ」とした。
しかし、そのためには同紙が懸念する危機的な借金財政が、経済の回復が遅れている中での増税となって、さらに悪化する恐れがある。国民の「不安の解消につながる展望」どころか逆の結果を招くことになるだろう。
(床井明男)