高齢者狙いで「終活」のための「人生の断捨離」を指南する現代大特集

◆ネットやめよは極端

 週刊誌が読者を団塊の世代に定めて企画編集しているという話は何度も紹介してきたが、その先頭を走っている週刊現代が3月13日号でも、高齢者企画を打ち出した。「65歳になったら、ぜんぶ『やめる』『捨てる』『手放す』」の巻頭大特集だ。こうまで徹底した高齢者狙いには小気味よさまで感じる。

 何をやめろといっているのか。①しがらみと他人の目を気にするな②子供や孫にはもう期待しない③家は売らない、老人ホームなんて入らない④ネットやスマホから離れる⑤腐れ縁の人付き合いはもうやめていい⑥兄弟・親戚との縁の切りどき⑦一日3食をやめる⑧サプリや健康食品を絶つ⑨病院通いも人間ドックもやめる⑩銀行と証券会社に騙(だま)されない⑪冠婚葬祭はもういいよ⑫その趣味が、人生の最後を不幸にする⑬こだわりを捨てろ―の13項目だ。

 一つ一つ、ごもっとも、と思わされる。だが、本当にそうか。例えば、①では会社時代の肩書にすがって生きるな、という主張には同感だが、地域の役回りなども引き受けない方がいいとアドバイスしており、要するにもう過去のしがらみを捨てて、知らんぷりして生きろ、というのは賛成しかねる。今こそ、現役世代にはできない地域共同体の構成員としてやるべき仕事がある。

 ④のネットをやめよ、というのも極端過ぎる。買い物もスマホ決済になっていくなど、これからますますデジタル化が進んでいく中で、スマホなど使うなというのはどうか。役所の災害情報もスマホに来る時代だ。

 確かにネット上には「『デマ』が飛び交っている」が、逆に経験を積んでいるからこそ、フェイクニュースを見破り、不審なメールをクリックしない慎重さが発揮できるはずだ。今どき、ネット、スマホを使うな、というのは縄文時代に暮らせ、というようなもので、この記事はどうかしている。

◆絆と腐れ縁見極めを

 ⑤腐れ縁の人付き合いはもうやめていい。その通りだ。コロナ禍は「虚礼」をやめるいい口実にもなる。だが、くれぐれも大事な「絆」まで断ち切ることのないようにしなければならない。やめるのはあくまでも「腐れ縁」で、自分の付き合いで何が「絆」で何が「腐れ縁」かを見極めるいわば“付き合いの断捨離”が必要だろう。

 ⑨高齢者となるとかなりの割合で「高血圧」と診断される。そして薬を飲まされる。以前、高血圧の基準は「140」と言われていたのが、今ではテレビでもうるさいほどに「130」と言っている。この10違うだけで、製薬業界の売り上げは「数兆円違う」と言われている。なので「降圧剤は飲む必要がない」という情報は絶対テレビには出ない。

 同誌は「新潟大学名誉教授・岡田正彦氏」のコメントを載せ、「最新の研究では、70歳以上では降圧剤を飲まないほうが長生きするというデータが出ています。高血圧の薬には眩暈(めまい)やふらつきという副作用もあり、転倒に繋がる危険も無視できない」と言っている。

 ⑪冠婚葬祭は「深く狭く」。その通りだと思う。コロナ禍で新聞のお悔やみ欄を見ても、ほとんどが「家族葬にて行いました」とある。親族と本人をよく知る親しい友人知人だけで「心を込めて」送ってやることが増えてきている。

 それに日本の葬儀は時間と金がかかり過ぎる。誰もが感じていたが、シンプル化に踏み切れなかった。コロナはいい機会を与えてくれた。遺族への義理で生前会ったこともない人を送る滑稽(こっけい)さに気付くべきだろう。

 最後に同誌は、「どうやってあの世へ旅立つか。それはまさに人生の集大成だ。しがらみやこだわりを捨てる、それこそが大往生のための鍵となる」と記事を結んでいる。要するにこの大特集は「人生の断捨離」であり「終活」のための指南書というわけだ。

◆捨て過ぎには要注意

 この記事に40代50代が関心を示すかどうかは不明だが、今どき書店やコンビニで週刊誌を手に取ろうという年齢層は団塊世代ぐらいしかいない。65歳となり、役所からも「高齢者」扱いされ、各種割引が利用できるようになる。しかし、一方で「あと20年」の人生が残っている。その長い老後を「やめて、捨てて、手放して」生きることができるだろうか。生活をシンプルにしていくのは大切だが、肝心なものまで捨ててしまって後悔することだけは避けたいものだ。

(岩崎 哲)