株価3万円で「景気映さぬカネ余り相場」と皮相的分析に終始の毎日
◆GDPはマイナスに
15日、東京株式市場の日経平均株価の終値が、バブル期以来、30年半ぶりに3万円の大台を超えた。
同じ日に発表された2020年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質で前期比3・0%増、年率では12・7%増。同時に20年のGDPは実質で前年比4・8%減と11年ぶりのマイナス成長となった。
これらの大きな経済ニュースを社説で論評したのは、16日付で毎日、産経、日経、17日で読売、朝日、本紙。見出しを記すと次の通りである。
毎日「コロナ下の株価3万円/景気映さぬカネ余り相場」、産経「GDPと株価/経済悪化の対応を万全に」、日経「30年ぶり株高の果実が家計に及ぶ流れを」、読売「株価3万円台/経済の実態を反映していない」、朝日「株価3万円台/ゆがみの蓄積に注意を」、本紙「国内景気/依然見通せない本格回復」――。
毎日の論評は一見、尤(もっと)もそうである。昨年のGDP4・8%減はリーマン・ショック以来の大幅なマイナス成長であり、各紙が指摘するように、今年1~3月期もマイナスになるとの予測が大勢である。
それでも株価が高騰したのは、日銀の大規模な金融緩和などで巨額資金が株式市場に流入したためで、景気の実態以上に株価を押し上げる「カネ余り」相場であり、だから、「新型コロナウイルス禍に苦しむ日本経済の実態を反映していないのは明らかだ」というわけである。
だが、「カネ余り相場」に違いはないが、それだけなら、同紙の指摘する大規模な金融緩和を始めた黒田東彦日銀総裁の登場以降ずっとそうであり、最近の株高の説明にはなっていない。同紙の見方は一面的、皮相的に過ぎよう。
◆次の成長企業に期待
その点、日経は「もちろん、いまの世界的な株高が巨額の財政出動と金融緩和に頼っている点は否めない」と認めながらも、「コロナ禍の逆風がデジタル化や自動化といった構造変化を加速させる契機になっている」ことを強調。トヨタ自動車やソニーなど、踏み込んだ事業変革やガバナンス改革を実施した企業が株価を底上げしているさまを指摘する。
もちろん、今の株高には米経済政策やコロナワクチンへの期待などいろいろな要因が考えられるが、日経が指摘するように「追い風になる企業は高収益を上げ、次の成長企業に期待が高まっている」ことも確かであろう。
産経は「足元の経済が厳しさを増す中、株価が上昇を続けるのは異様な姿である」と指摘して毎日と同様な見方を示す。
ただ、毎日がカネ余り、株価論議に終始するのに対し、産経は景気の現状とコロナという特殊な状況の下での現実的な政策論を展開する。
◆安全網の活用を強調
1月の景気ウオッチャー調査で街角の景気実感が悪化するなど、経済はむしろ二番底の様相を強めているが、「通常の不況期と違い、経済活動を抑える緊急事態宣言下では需要喚起策の再開も時期尚早だ。ワクチン接種の効果を待つばかりでは景気回復も見通せない」として、同紙は、まずは雇用や資金繰りを支援する安全網を効果的に活用し、景気悪化が深刻化しないよう経済を下支えする取り組みを強めるべきである、と強調するのである。同感である。
読売は「経済の動きと乖離(かいり)したバブル相場との懸念がぬぐえない」としながらも、政府・日銀は市場の過熱を警戒しつつ、「株価の維持に向け、経済の底上げに地道に取り組むしかない」として、当面は感染抑止に全力を挙げ、サービス業を中心とする事業者の支援に手を尽くすべきだ、と産経同様、提案は現実的だ。
本紙は、結果的に産経や読売の主張、提案とほぼ同様であったが、GDP統計だけの論評にとどまった。株価が30年半ぶりの高値を付けているだけに、これに関する論評がなかったのは残念で物足りなかった。
(床井明男)