今月施行の巨大IT企業規制法に「実効性」で注文を付けた産経と日経

◆「強化の検討」求める

 米グーグルをはじめとする巨大IT企業に対する規制法が今月1日から施行された。「特定デジタルプラットフォームの透明性・公正性向上法」で、巨大IT企業に対して、契約条件の開示や政府に対する運営状況の定期的な報告などを義務付け、弱い立場に置かれやすい小規模事業者の保護を図るものである。

 同法の施行について、これまでに社説で論評したのは、2月1日付の産経と日経の2紙のみで、見出しは産経「実態に応じ強化の検討を」、日経「公平で実効性を伴う巨大IT規制に」である。

 両紙とも、新法に実効性の面で注文を付けている。特に産経は、「規制としては緩すぎないか」と疑問を呈し、見出しの通り、「強化の検討」を求めた。

 産経が「緩すぎ」とみるのは、欧米では巨額の制裁金など罰則を設けているのに対し、新法は情報開示を通じて巨大ITの「自主的な改善」を促す点を特徴にしているからである。

 同紙は、「日本も実態に応じた規制の見直しが欠かせない」と主張し、規制の実効性を高めるために、「禁止事項を定め、それに違反した場合には一定の制裁を設けるなどの厳しい措置も検討すべきだ」と強調するのである。

 確かに、一理はある。日経も指摘するように、日本でも巨大IT各社の寡占が強まり、取引先に不利な条件を押し付けるといった問題が多発。ネット通販などでは運営側の企業が優位に立ち、一方的な規約変更などを強いられても泣き寝入りする出品企業が大半だった、からである。

 ただ、過度な規制はIT企業の技術革新を阻害し、日本の事業者や消費者が先進的なサービスから取り残される懸念もある。産経は「IT企業や経済団体の反発に配慮したため」としたが、「透明性を高めることで巨大ITを縛る、日本独自の新しい取り組み」と評価する指摘(1日付本紙「ニュースを探るQ&A」)もあり、評価は分かれよう。

◆海外当局との連携を

 この点、日経は「情報開示を通じて社会的な監視を強め、大手各社をけん制する効果が期待できる」にとどめ、その一方でIT各社に対して、「世界的に広がる批判を直視し、改めて襟を正すべきときである」と深い反省を求めた。

 実効性に関しては、日経も産経同様、「大きな課題」とした。同紙は「巨大ITの中には数百人単位で専門家を集め、訴訟の増加に備える動きも出ている」「日本は人材もノウハウも足りない」として、欧米などと連携して調査と監視に動く必要がある、としたが同感である。

 産経も「国境がないIT企業の規制には海外当局との連携が不可欠だ」として、日本も海外の動きを注視して具体的な法規制を講じてもらいたい、としている。

 日経は実効性のほかに、「違反を公平に摘発できるか」を課題とした。

 新法の対象は国内の年間売上総額が3000億円以上のネット通販や、2000億円以上のアプリ販売を手掛ける企業である。

 日経は、新法が念頭に置くのは米グーグルなど「GAFA」と呼ばれる大手だ。しかし公正取引委員会の調査では楽天やヤフーに不満を持つ出品者も多かった、として「外資たたき」に終始するようでは中小企業や消費者の利便は守れない、と懸念を示す。

◆より多くの論評期待

 対象事業者は規制の本格運用が始まる春に正式に決まるが、現段階で産経は米アマゾンや楽天、グーグル、アップルなどが対象になる見通しとし、本紙報道ではヤフーも対象となる見通しとしている。

 こうした違いは、対象事業者が正式に決まっていないためだが、日経が抱く懸念が杞憂(きゆう)に終わるよう、本格運用に際し当局は明確なスタンスを示すことが肝心である。

 今回の論評は2紙だけだった。日経が指摘する「社会的な監視」を強めるためにも、より多くの論評が出ることを望みたい。

 (床井明男)