「科学的視点に欠ける」と科学者に紙面上で社説を批判された朝日

◆「脱エンジン車」の愚

 科学者による痛烈な朝日批判にお目にかかった。それも産経や保守誌ではなく、当の朝日紙上で、だ。

 「電気自動車用バッテリーは生産段階で大量のCO2(二酸化炭素)を排出する。にもかかわらず脱エンジンこそがエコと決めつけ、さらに先を求める昨年12月9日の朝日新聞の社説『脱エンジン車 気候危機克服の視点で』は、科学的視点や具体性に欠けると言わざるを得ない」(1月15日付「新井紀子のメディア私評」)

 朝日は非科学的。そう断じられていた。新井氏は国立情報学研究所教授で、読解力測定のためのテストを実施する「教育のための科学研究所」所長。人工知能「東(とう)ロボくん」の研究開発者として知られる。

 氏が言うには、日本は国土の約3分の2を森林が覆い、四方を海に囲まれる森林・海洋国。公共交通機関の発達が目覚ましく、自動車への依存度は比較的低い。ところが、国民1人当たりのCO2排出量は、先進国の中で自慢できる水準にはない。CO2排出の実に4割を発電所などのエネルギー転換部門が占め、過度に石炭や石油に依存してきたからだ。

 「エネルギー転換部門に抜本的に手をつけなければ、1人当たりのCO2排出は逆に増える可能性すらある。『石炭を燃やして電力をつくり、不要な電力を放電し、ロスをしながら送電し、長時間かけて充電をして電気自動車を走らせる』愚に陥るからだ」

◆反原発の「煽り報道」

 そんな愚に気付いていないのが朝日社説と言うわけだ。これは「原発潰(つぶ)し」の朝日批判にも聞こえる。石炭や石油に依存しない発電の大きな柱は原発だ。ところが朝日などの左派メディアは反原発の「煽(あお)り&仰天報道」を繰り返してきた。

 福島第1原発事故後の2011年秋、朝日は横浜で放射性ストロンチウムが確認されたと報じ、「原発周辺と同じレベルの汚染が首都圏まで及んでいた」(同10月15日付)と決め付けたが、違っていた。旧ソ連や中国が行った核実験によるものだった。福島県郡山市の水道水から放射性セシウムが検出された(「週刊朝日」)、放射線被曝(ひばく)で鼻血が出た人が多数いる(漫画「美味しんぼ」)、耳のないウサギが生まれた、福島の子供たちは将来、子を生めない…、そんなウソ話が続出し、県民は風評被害に悩まされた。

 その極め付けは朝日の吉田昌郎・福島第1原発所長(13年死去)の「吉田調書」報道だ(14年5月20日付)。所長の命令に違反し、所員の9割が逃げたと大ウソをついた(14年9月、謝罪・撤回)。

 科学者といえば、原子力規制委員会の初代委員長、田中俊一氏が昨年8月、朝日のインタビューで痛烈なメディア批判を行っていたのを思い出す(同19日付)。

 「放射線の専門家でもない人たちがテレビに出て、危険性を過大に言い立てた。それを国民もうのみにしてしまった…同じ状況がコロナでも起きています。メディアが引っ張り出した『にわか専門家』たちが、根拠もないことを言っている。信頼できる意見とそうでないものをきちんと仕分けせず、ただ『こんな意見もあります』と紹介するのは無責任きわまりない」

 さらに手厳しく語る。

 「メディアの悪いところは、科学的根拠に基づいた見解と、何の根拠もない極論を同列に報道することです。取り上げるに値しない意見は無視すればいいんです。メディアが極論まで無責任に伝えていると、それこそ政治によって危険な方向へ利用されてしまう。実際に政治家が、極論を唱える『専門家』を国会に呼んで話をさせ、それをまたメディアが報じている」

◆科学者の声聞くべし

 この記事は「問われる科学と政治の距離」と題されていた。どうやら当時の安倍政権批判に利用しようと目論(もくろ)んだようだが、見事に返り討ちに遭った。朝日よ、科学者の声に耳を傾けよ。それができないというなら、新井先生、ぜひ朝日の読解力の測定を。

(増 記代司)