三菱重の国産旅客機開発凍結に悲愴感漂う東京、叱咤激励する産経

◆地元愛を隠さぬ東京

 三菱重工業が国産初の小型ジェット旅客機「スペースジェット」(旧MRJ)開発の事業凍結を発表した。残念なことだが、コロナ禍で苦境にあえぐ業界から当分は新たな発注が見込めないからという。

 新聞各紙は読売を除き、社説で論評を掲載。東京は今回の発表前の先月24日付に「見通し」の段階でいち早く「再起の芽を残したい」との見出しで載せた。他紙の見出しを掲載日順に並べると次の通りである。今月1日付毎日「国策失敗の検証が必要だ」、4日付日経「開発の力が落ちていないか」、5日付朝日「挫折の経緯、説明を」、6日付産経「開発体制の再構築を図れ」、7日付本紙「効率的な開発体制を整えよ」――

 東京が早かったのは、スペースジェットの開発事業を進めている現場が、同紙を発行する中日新聞社のお膝元であるからで、見出しからも分かるように、地元愛から悲愴(ひそう)感漂うものになっている。

 他紙では、朝日と毎日が凍結に至った経緯やその検証に重点を置いたのに対し、産経と本紙はそうした検証を踏まえ再開に向けた体制の整備を訴え、日経は航空機にとどまらず、大型開発を仕上げる日本企業の力そのものに懸念を示した。

 二〇一五年十一月。初飛行を終えて名古屋空港に戻ってきたMRJは秋の日差しを受けてきらきらと光っていた。機体を背に誇らしげに手を振るパイロットら。この光景に「早く『国産の翼』で飛んでみたい」と思った人は多いのではないか。しかし、その夢はついえてしまいそうだ――

 社説とは思えぬ情緒的な文章で本文が始まる東京の社説である。

 感情移入のほどが分かるというものだが、気持ちとしては十分頷(うなず)ける。

◆自前主義過信を指摘

 東京の社説は前述したように正式発表前のもので「事業化の断念に近い」とした。実際の発表内容は開発予算の大幅削減、人員の縮小で、「いったん立ち止まる」(泉沢清次社長)ものの、国土交通省からの型式証明取得に向けた作業は続け、将来に備えるというものだったが、東京の見方はそう間違ってはいないだろう。

 重点の置き方で論調に違いが出たが、共通していたのは「自らの技術力や管理能力への過信」(毎日など)や「自前主義への過信」(日経)、「『自前主義』にこだわった同社の開発体制」(産経)などといった凍結の要因に関する指摘である。東京も「事業計画や自己分析の『甘さ』」としたが、その通りである。

 違いは、国産旅客機開発に政府が約500億円を支援し「事実上の国策として進めてきたプロジェクト」(毎日)である点で、航空機産業が集積する愛知県などの自治体も独自支援を続けている。「税金を投入した事業が中断した以上、政府や自治体は、経緯や原因について、説明を尽くす必要がある」(朝日)、「なぜ失速したのか、検証が不可欠だ」(毎日)というわけである。

◆開発の在り方検証を

 確かに、尤(もっと)もな指摘なのだが、まだ「凍結」の事態であり、断念したわけではない。本紙指摘の通り、型式証明取得のために米国での飛行試験を進め、3月には愛知県内で最新の機体での試験にも成功し、3900時間に上る飛行データもある。

 この点で、「凍結に至った要因を厳しく検証したうえで、国産機の開発・製造に向けた体制を再構築しなければならない」(産経)、「これまでの開発の在り方を検証し、効率的な体制を整える必要がある」(本紙)といった、検証と同時に前につながる叱咤(しった)激励も必要ではないか。検証の上で、「事業の継続に向けて新たな公的な支援も検討してほしい」との産経の提案には同感である。

 今回の事業凍結には、もちろん、コロナ禍による業績悪化の影響もあるが、それ以前に、初号機納入の6度の延期は開発の在り方に問題が少なくないことを示しており、検証が重要であることは論をまたない。

(床井明男)