菅内閣1カ月、全てが安倍前政権絡みの朝日の批判は感情的で新味なし

◆いきり立つ朝日社説

 「説明責任をないがしろにする強権的な政治手法まで『継承』なのか。これでは『負の遺産』の解消どころか、安倍前政権下で進んだ政治の劣化に歯止めをかけることはできない」(朝日・社説16日付)

 朝日新聞がいきり立っている。16日で政権発足から1カ月を迎えた菅義偉(よしひで)政権。冒頭はこの日に掲げた社説の冒頭である。社説は続いて菅政権の携帯電話料金の引き下げや不妊治療への保険適用、デジタル化の推進など評価の高い国民目線の政策課題の迅速な取り組みにはちらっと触れただけ。後は堰(せき)を切ったように菅政権批判オンパレードである。

 臨時国会の召集が「就任から40日後というのはいかにも遅い。(中略)国会軽視が際だった前政権と変わらない」とか、森友問題も持ち出して、その再調査拒否などは「安倍前首相による私物化疑惑にはフタを」し「前政権の負の側面を直視しない」などジャブを繰り出す。本丸である日本学術会議の会員候補6人の任命拒否問題では「法の趣旨を曲げた恣意(しい)的な人事によって脅かされる暴挙が繰り返された」と批判。自民党が学術会議の見直し論議に着手すると「論点のすり替えで批判をかわす――。まさに前政権下で繰り返された光景だ」と迫る、という具合である。

 全ての批判が安倍前政権に絡めての批判だが、すでに朝日は「菅『継承』内閣が発足 安倍政治の焼き直しはご免だ」(9月17日付社説)と喧嘩(けんか)腰の啖呵(たんか)を切っている。この時は安倍辞任社説(8月29日付)でのフレーズ「傷ついた民主主義」を再び持ち出して菅政権の「前途は険しいと言うほかない」と断じた。今回はフレーズが「負の遺産」や「政治の劣化」に変わっただけで、いきり立つ批判は感情的で新味はない。

◆世論とはズレたまま

 そもそも朝日が言うように安倍前政権で民主主義が傷ついているとは国民は思っていないし、「負の遺産」があるのかや「政治の劣化」も検証されたものではなく疑問である。そのことは何よりも朝日自らの世論調査結果(9月4日付掲載)で、安倍前首相の実績を「評価する」とした回答が71%にも上ったことでも明らかと言えよう。世論と社論のズレが満天下に露(あら)わとなって、むしろ「傷ついた」のは朝日の方だったではないか。だからこそ、朝日のパブリックエディターの一人は、ズレに言及したコラム(朝日9月29日付)で、政権支持の声と批判意見の「両者のものの見方を十分に咀嚼(そしゃく)できていたのか。虚心坦懐(たんかい)に振り返る必要があ」ることを認め、真摯(しんし)に受け止めたのではないか。いきり立つ社説は、国民世論とズレたままの延長線を引いただけで説得力はないと言えよう。

 同じ菅内閣1カ月を論じた読売(社説・同17日付)は、政府に「改革の効果や影響を見極め、国民生活の向上につなげる必要がある。混乱を招かぬように進めてもらいたい」と抑制の効いた総括をしている。行政のデジタル化や携帯電話料金の引き下げでは「早期に実績を上げ、政権運営を軌道に乗せる狙い」からスピード感ある実行を好感。行政手続きオンライン化で「省庁間の協力を円滑にする意義は大きい」とする一方で、「パソコンを十分に使いこなせないお年寄り」や「押印の廃止などに戸惑う人」など「社会生活への影響に配慮して議論」を進めることの大切と目配りも求めた。もっともだ。

◆具体的な読売の主張

 論議を呼んでいる日本学術会議の会員候補の任命拒否問題では、任命拒否が、言われているような「学問の自由を脅かしているとは言えない」と指摘。その一方で「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を確保する観点から判断した」とする菅首相の説明は「抽象的で紋切り型の答えを繰り返すだけでは、当事者はもとより、国民の理解も得られまい」と説き、首相に判断の理由や経緯など丁寧な説明を求めた。

 また、まだ収束が見えない新型コロナウイルス禍の対策では、政府に雇用維持や医療機関の体制警備、検査の拡充などの継続に加え、国民の不安解消に「新たな経済対策も視野に入れ」た対策を求めた。いきり立つ朝日に比べ、地味でも実用的で具体的な主張は妥当である。他に毎日(17日付)が社説を掲載、日経、産経、本紙は掲載しなかった。

(堀本和博)