中国の「わな」にはまらず、日米関係深化に資する正論中の正論掲載の産経
◆大局観問われる菅氏
安倍晋三首相が退陣し、政権を引き継いだ菅(すが)義偉(よしひで)首相には現下の国際情勢の中で引き続き日本の安全と平和をどのように維持していくのか、その大局観が問われている。地球儀を俯瞰(ふかん)する安倍外交は、トランプ米大統領との信頼関係による強固な日米同盟を基軸に、自由貿易や「法の支配」など価値観を共有する諸国との幅広い連携を行う中で「自由で開かれたインド太平洋」構想の推進に邁進(まいしん)してきた。
折しも一昨日、米国のポンペオ国務長官と日本、オーストラリア、インドの4カ国の外相が東京都内で会合。4カ国の外相は「インド太平洋」連携を強化することで一致し、年1回のペースで会合を定例化することでも合意したのである。
こうした路線を最優先して進めることこそが国益で、菅首相に日米分断を画策する中国の「わな」に警戒する必要を呼び掛ける二つの論考に注目したい。まさに正論中の正論なのだ。
◆中国は中・長期的脅威
一つはジャーナリスト櫻井よしこ氏の「美しき勁(つよ)き国へ」(産経5日付)。「国際社会は米国一強から、価値観を共有する国々の連携の時代に入った」ことで、「助け合うべき相手は米欧であり、中・長期的な脅威は中国だ」と判ずる。大事にすべき隣国であっても中国は「人類史上類例のない長期的・組織的弾圧でウイグル人など少数民族を抹殺中だ。四面楚歌(そか)は身から出たさびであろう」とバッサリ斬る。
その上で、先月25日の電話による日中首脳会談での、習近平国家主席の「双方が安定かつ円滑な産業チェーン・供給チェーンと公平、オープンな貿易・投資環境を共に守り、協力の質とレベルを高めることを希望する」(一部略)という発言(中国側発表)に、菅首相を待ち受ける「わな」を読み取る。
米国の攻勢に大幅な外貨や資本流出が止まらない中国。そこで「習氏はその動きを止めるために日本利用をもくろむ。菅首相に日中間のサプライチェーンのより強い構築を提案し、中国切り離し、デカップリング(分離)を真っ向から否定したと読むべきだ」と指南する。そして、「天安門事件で孤立した中国は海部俊樹首相(当時)を籠絡(ろうらく)して制裁の輪をまんまと切り崩したが、菅首相を第2の海部氏にするつもりであろう」と警告。一方で「現在、日米豪印の連携を強めることが最上の対中外交だ」と結ぶ。洞察である。
◆要注意の扇情的情報
もう一つも同じ5日付産経「正論」で、島田洋一・福井県立大教授の「煽情(せんじょう)的情報による分断に乗るな」である。米国で続いた警官による黒人死傷事件で、運動体「黒人の命は大事(BLM)」の警察糾弾デモが広がり、便乗分子による放火・略奪が続いた。
8月にウィスコンシン州で黒人男性が警官に撃たれ重傷を負った事件では、現地のプロバスケット(NBA)チームが抗議の試合ボイコットなどをし、日本国籍を持つテニスの世界的選手の大坂なおみ選手も出場中の大会棄権を表明した。
島田氏はその際の大坂選手の「反警察」言動を危惧視する。NBA選手の声明文は「議会(すなわち民主的手続き)による改革を求めた点で、それなりに理性的な行動と受け止められた。/一方、大坂選手の声明は『警察の手による継続的な黒人ジェノサイド(計画的大虐殺)』という極端な言葉が躍るものだった」「それこそまさに極左暴力集団が掲げる警察襲撃の論理そのもの」だと指摘する。
撃たれた「男には性的暴行、家宅侵入等の容疑で逮捕状が出ていた」し、通報した「被害女性は警察の介入で性暴力に遭わずに済んだ。その事実にも目を向けるべきだろう」「実態を冷静に見極める時である」と結んでいる。警官が黒人を撃ったという米国の事件は日本で報道されても、その背景にまで迫る詳報で実態を知る機会は少ない。日本人の米国観を歪(ゆが)めている恐れなしとは言えず、新聞は煽情的情報よりももっと事実の詳報で読者の知る権利に応えるべきだと反省させられた。
(堀本和博)