コロナ禍に商機をつかむ経営者や京都の老舗を取り上げたポスト、朝日

◆前年比150%伸長

 自転車に小荷物を乗せて、勢いよく走る宅配サービスをどこでもよく見掛ける。コロナ禍で飲食業界が不振の中、急拡大する地域を巡る宅配の配達員たちだ。週刊ポスト10月2日号は「コロナ禍で空前の急成長!『宅配サービスはまだまだ伸びる』」と題し、しのぎを削る企業の一つ「出前館」の中村利江会長(55)にインタビューし成功の因を聞き出している。

 「デリバリーの配達スタッフも、コロナ前は1500人ぐらいでしたが、直近では4000人を超えるまでになっています。/出前館の加盟店数は7月に3万店を突破しました。この1年間で1万店以上増えたことになります。(中略)毎月、前年比150%以上の伸び率をキープしています」と中村会長。

 始まりは「外出自粛」で、これは消費者側の事情だったが、店側の尻に火が付いた。客足がまったくといっていいほど途絶えたのだ。これを好機と捉えたのが宅配サービス業で、客のニーズと店側の要望をつなぎ、両者にウィンウィンの関係をもたらした。

 「何より、飲食店の方々の意識がすっかり変わったことが大きい。(中略)イートイン(注・来店による飲食)とは違う新規のお客さまが獲得できることを理解していただけた。外食業界の中でその認識が一気に広がっている」と。出前館には一番打撃のあった居酒屋や焼き鳥チェーンなどの加盟が多い。出前館ではないがコーヒー2杯から配達している所も。

◆20年前から必須確信

 中村会長は「20年前から、いずれどの飲食店もデリバリーやテイクアウトが必須になると確信していましたが、コロナ禍でその波が一気に押し寄せてきた感じです」と。事業家として、その日を虎視眈眈(たんたん)と狙ってコツコツと準備してきたところが中村さんの真骨頂だ。

 飲食の出前を頼むというと、年配者のうちには、すぐ、食事や料理の手抜きの結果だ、と眉をしかめる人もいるが、必ずしもそうではない。世代構成がすっかり変わり、生活様式もさまざま。急な来客や小人数の集会のときなど、飲食の条件に煩わされず、スムーズに事を進めることができる。そういう機会が多くなったと思う。高齢者も重宝している。デリバリー隆盛は、人との交流を促進する面がある。

 「まずはフードデリバリーで完全なネットワークを構築することが大事です。出前館の拠点から半径3㌔以内を網の目のようにカバーし、地方にも広げていく。夢は広がるばかりです」と締めくくる。意志あれば道あり、奇貨おくべし、いろいろな諺(ことわざ)があるが、いつの時代にも、商機を巧みにすくい上げることができる人がいるのだろう。時宜を得たインタビュー企画だ。

◆取り寄せ商品も続々

 週刊朝日9月25日号「そうだ 京都、取ろう。」も、コロナ禍の飲食業の異変を扱っている。京都の老舗の和菓子のうちには、東京のデパートで売られているものもあるようだが、京都に足を運んで、その雰囲気の中で老舗の和菓子を楽しむのが筋だった。それが近年、老舗といわれるところが通販の商品を扱うようになった。

 記事は「続々と誕生する取り寄せ用新商品を見逃すな」の見出しの下、それに該当する商品情報を集めている。円山公園内の茶菓円山の菓子は、取り寄せに特化。伊藤久衛門も今夏に抹茶パフェアイスバーを開発した。菓子類だけでなく、有名な麺屋猪一の「和牛肉汁つけそば」の通販といった具合。情報を細かく集め、うまく整理し表にしてまとめている。朝日の得意とするところだ。

 取り寄せに力を置く理由について、編集者は「客数が減り収益が落ちたことだけではない。少しでも多くの人が自分たちの商品を食べることで、明るい気持ちになればという願望も込められている」と解説している。もちろんそうだが、コロナ禍が収束すれば、元に戻るかといえば、通販の比重を高め、商品開発をしているほどだから、なかなか元の仕組みには戻るまい。というか、コロナ禍の事情を店の経営に巧みに利用している、と言っていいだろう。朝日の企画は取り寄せができる店のラインアップが目的だが、店側の本音も透けて見えて、面白い。

(片上晴彦)