「65歳以上は高齢者」との分類は現実的でないと疑問視した読売と本紙
◆問われる具体的提案
読売「年齢にとらわれず、意欲や体力に応じて、様々なことに挑戦できる社会を作りたい」。本紙「超高齢化社会へと進む日本が解決し、また未来に備えておくべき課題は多い。そういう中で、新型コロナウイルスの感染拡大が高齢化社会に新たな課題を突き付けている」。産経「高齢者に無事でいてほしい。新型コロナウイルス禍にあって、そんな思いを強くした人は多いはずである」。
敬老の日の21日に、これをテーマに掲げた3紙の社説(主張)の冒頭で、見出しはそれぞれ順に「豊かな長寿社会をどう作るか」「健康寿命延ばし社会貢献を」「大切な人たちを守りたい」である。
敬老の日に、メディアは何を考え、何を訴え、提言するのか。
日本人の平均寿命(2019年生まれ、厚生労働省)がさらに延びた。女性88歳、男性81歳で、どちらも過去最高を更新した。国内の65歳以上は過去最多の3617万人(総務省など)。人口の29%を占める高齢化率で、2位イタリアの23・3%に大きな差をつけている。ただ今現在、日本は世界の中で高齢化社会を進むトップランナーで、どんな長寿社会づくりをしていくのか、モデルのない中で模索が続く。メディアにも問われるのは、具体的な提案である。
読売と本紙はまず1950年代半ばに出た国連の報告書に依拠する、「65歳以上を高齢者」とする分類の見直しが課題だと、根底からの問題提起をした。高齢者の活躍の場を増やすためには「65歳以上をひとくくりに高齢者と区分して、社会に支えられる側に位置づける考え方を見直すことが課題」だと指摘した読売は、政府の高齢社会対策大綱(2018年)が「65歳以上を一律に高齢者とみる傾向は、現実的なものではなくなりつつある」としたのは「妥当だ」と強調した。
◆実態踏まえた支援を
その上で、神奈川県大和市が18年に「70歳代を高齢者と言わない都市」宣言をし、シニア講師の語る講座を設けるなど高齢者の居場所づくりに注力していることを例示。「大切なのは、健康づくりを推進すると同時に、年齢にかかわりなく活躍できる機会を設けること」を求めた。また高齢者の健康状態や経済状況が年を重ねるほど個人差が広がることを指摘し、国や自治体に、その「実態を踏まえて、適切に支援していくことが重要だ」と強調。「高齢期をいかに実りあるものにするか。社会全体で改めて考え」る必要に言及したのは首肯(しゅこう)できる。この日にふさわしい論調を展開した。
本紙は国内で就労の場を失った高齢者が、長年培ってきた技術や知識を就職した「外国企業に持っていかれるのは残念」だと訴え、こうした「人材の受け皿となる企業や機関の充実」と「国の支援強化」を求めた。さらに65歳以上とする高齢者の定義の妥当性にも疑問を提起し「平均寿命や健康状態の変化を科学的に検証し、高齢者の定義を変更した場合の影響を含めて、本格的な研究・検討」を求めた。
◆熱いエール送る産経
一方、産経は高齢者に敬意を示したユニークな論調を展開した。今もコロナウイルス禍の下にある今年の社会状況を色濃く反映し、終始、高齢者を守ることを強調し、エールを送ることに主眼を置いた主張となったのである。
「ウイルスに対して弱者となる高齢者に感染を広げてはいけないことは繰り返し言われている」ことの確認を重ねて求めたり、「誰もが生活のあらゆる局面で予防に努める必要があることを、改めて肝に銘じたい」と説いた。そして、重ねて「祖父母や両親だけでなく、高齢者全員を思いやる気持ちを持ち続けよう」と呼び掛けた。
高齢者に対しては「感染防止に努めつつ、娯楽でも仕事でも前向きに歩んでほしい」と励ました。さらに、今春、希望すれば70歳まで働けるよう企業に努力を義務付けた関連法が成立したことに触れ「社会は高齢者の活躍をますます求めている」「リタイアしても豊富な人生の知識がある。それも周りに伝えてほしい」などと心に響く熱いエールを送った。それはそれでいいとしても、高齢化社会の日本を充実させる提言がないのは、やはり物足りない。
(堀本和博)