米国務長官の歴史的演説を中国当局者に否定させる朝日の異様な紙面作り
◆対中政策を全面転換
「ポンぺオ演説」。これは歴史的演説として後世に残るだろう。ポンぺオ米国務長官が「共産主義の中国と自由世界の未来」と題して行った対中政策演説のことだ。ニクソン時代(1970年代)からの米国の対中政策を全面転換させる内容だった。
ポンぺオ氏は中国の習近平国家主席を「破綻した全体主義的イデオロギーの信奉者」だと名指しで批判し、「自由世界はこの新たな暴政に打ち勝たなくてはならない」と述べ、民主主義国が連携して中国の脅威に対抗するよう呼び掛けた(本紙25日付)。
他紙の25日付では、産経は1面トップで、「歴代政権の対中政策は『失敗』 VS共産中国 米の決意」、読売は2、3面で「米、共産党体制に矛先 『自由か圧政か』呼びかけ」と報じ、国際面の演説要旨は130行以上に及んだ。毎日も1面で「『習氏は全体主義信奉』 歴代対中政策『失敗』」とし、2面の「焦点」でこう解説している。
――(ポンペオ演説は)6月下旬から続いた政府高官による対中政策演説の締めくくりだ。これまでオブライエン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、レイ連邦捜査局(FBI)長官、バー司法長官が中国を批判してきたが、どの演説も根底にあるのは「中国共産党が米国の『自由で開かれた社会』を食いものにしている」(ポンペオ氏)との怒りと恐れだ。政権の方針として、中国に政策変更を迫る強硬姿勢を鮮明にしている――
◆米国は小、中国は大
ところが、朝日は違っていた。1面トップは「中国が報復 米公館閉鎖要求/成都の総領事館 『米側に責任』」と、中国外務省が米国政府に対し四川省成都にある米国総領事館の設置許可を取り消し、業務停止を要求したと報じる。
米国が22日にテキサス州ヒューストンの中国総領事館の閉鎖を命じた記事は国際面で“並み”の扱いだったが(23日付)、中国の報復措置は1面トップを張った。まるで格が違うと言わんばかり。いかに朝日が中国の顔をうかがっているか、感じ入ってしまった。
昨秋、北海道大学教授が中国当局に一時拘束されたが、朝日は第一報を社会面で小さく扱い(10月19日付)、解放されると1面肩で「中国、北大教授を解放」と大きく報じた(11月16日付)。朝日にとって日本人拘束は小記事、中国解放は大記事だった。領事館閉鎖も同じパターンで米国は小、中国は大なのだ。
どう見ても違和感を禁じ得まい。むろん朝日もポンぺオ演説が重要だと分かっている。中国の閉鎖要求の続きに、ベタ白抜きの目立つ見出しで「ポンペオ氏 対中関与政策 決別を宣言」と伝え、2面の「時時刻刻」で「米中強硬、対立は新段階 ポンペオ長官『新たな民主主義の同盟を』」と他紙と同様に扱い、演説要旨も手際良くまとめている。
それだけに1面の紙面作りの異様さが際立っている。1面のポンぺオ演説はわずか16行。最後の5行は「汪氏は会見で『イデオロギー的偏見と冷戦思考に満ちたものだ』と批判した」などとあるから、実質は11行という短さ。汪氏とは中国外務省・汪文斌副報道局長のことで、朝日はポンペオ演説を中国当局者に否定させているのだ。
◆中国寄りの偏向報道
記事をよく読むと、末尾に(北京=冨名腰隆、ワシントン=大島隆)とある。北京が先、ワシントンが後である。両特派員の記事を編集デスクが1本にまとめ上げ、中国サイドの見出し「米側に責任」を強調したわけか。ポンぺオ演説を貶(おとし)める“見事”な紙面作り。前記の毎日記事も米中2人の特派員が書いているが、こちらは【ワシントン鈴木一生、北京・河津啓介】と、ワシントンが先だ。記事の性格上、当然の扱いだろう。
かくも朝日は中国寄りなのである。「寄る」とは「事物や現象が1方向や1点にいちじるしく近づき、また集まってあらわれる意」、または「片方にずれる」こと(広辞苑)。すなわち偏向報道を言うのである。
(増 記代司)