コロナ禍で朝鮮戦争以来の米中体制対立の到来を論じた「日曜討論」
◆民主主義理念の競争
新型コロナウイルスの国別累計感染者数は、専門家有志の国際ネットチーム「ワールドメーター」の集計によると1位は400万人を超えた米国、発生地の中国は3月から8万人台で数字はあまり動かず26位に下がった(23日)。
トランプ米政権は中国に不信感を強め、「依然情報が届かず感染者数も死者数も不明だ」(コンウェイ大統領顧問)と批判している。米国の歯ぎしりが聞こえてくるようだが、新型コロナ感染が米中関係はじめ国際情勢に与えた影響について、NHK「日曜討論」(6月28日放送)が「北朝鮮・アメリカ・中国/国際情勢を読み解く」と題して議論していた。出演者は外相の茂木敏充氏、防衛大学校長・国分良成氏、早稲田大学教授・中林美恵子氏、慶應大学教授・西野純也氏、東京都立大学教授・詫摩佳代氏。
1月に中国政府が湖北省武漢市の新型コロナ感染を公式に認めて約半年。この間、「中国の存在がさらに明らかになった」と中林氏は指摘する一方、「米国の世論を通しても中国に対する好感度がコロナで非常に下がった」と米国の対中感情がかつてなく悪くなり、米中対立は必ずしもトランプ政権における特異なものではないと言う。
むしろ、「ワシントンの政権、議会を含めた大きなコンセンサス」から出てきたもので、「米中対立が他の国を巻き込んで、民主主義の理念を競争の中に巻き込んでいくことが起こりそうなきっかけがコロナの時代ではないか」との認識を示した。
◆アジアの冷戦は米中
米中対立について国分氏は、「体制間の対立」だと70年前に勃発した朝鮮戦争が中国軍参戦により米中戦争になった経緯から説明した。「アジアの冷戦はその時代は米中冷戦だった」と述べ、体制の対立となるとコロナ後も「出口は難しい」し、むしろ対立は広まる可能性があると見る。
共産主義体制と民主主義体制の対決でもあった朝鮮戦争の延長線にあるのが「コロナの時代の米中対立」との解釈に立てば、中国が香港の「一国二制度」を事実上反故(ほご)にした問題を含め、体制間対立がより明瞭に“復活”したわけだ。
この米中の体制間対立が曖昧だった理由は、同氏も触れていた「ニクソン・ショックで米中接近により70年代にいったん仲良くなった」からで、「ソ連という共通の敵がいた」ためだ。米国は一昨年、ペンス副大統領演説で、中国を支援すれば変わると楽観した歴代政権の対中政策は誤りだったと総括している。
米ソによる欧州正面の東西冷戦は、西側諸国が結束した対ソ包囲網によって経済・技術格差が広がり、軍拡の限界がきたソ連が共産党独裁体制を改革(ペレストロイカ)しながら終結していった。が、体制変革後のソ連崩壊を中国は反面教師としている。
かつて米中が砲火を交えた朝鮮半島では、非核化問題などで「関係国の足並みが乱れる状態が続いており、その隙を北朝鮮が挑発という形で突いてくる」(詫摩氏)ので解決には程遠い様子だ。とりわけ「北朝鮮から見れば韓国は米国との関係では頼れないと見限られている」(西野氏)など、米韓同盟関係の信頼低下も指摘されていた。
◆国際秩序の再構築へ
茂木外相は、コロナ感染の世界的流行に国際協調が今まで以上に求められるものの、「米中が対立する一方で、国際協調の主導的役割を担わなければならないWHO(世界保健機関)にさまざまな疑念が持たれている」と指摘。「ポストコロナのさまざまな国際ルール、国際システムをまさにつくり直していく、こういう段階にこれから入るんじゃないかと思っている」と述べた。
民主主義の価値観をめぐる問題では、中国に声を上げろと識者らは口を揃(そろ)えていた。中国は国連はじめ国際機関への影響力を強め、香港、南シナ海には力を伴いながら支配を強めている。日本も態度を決めるところは決めないといけない。
(窪田伸雄)