大胆な社説と全国世論調査、低調な都知事選報道で独り気を吐く毎日

◆人気投票の様相呈す

 東京都知事選挙が告示されると、毎日は早々と“人気投票”をやった(毎日・社会調査研究センター=20日実施、全国世論調査=21日付)。

 それによると、「都知事にふさわしいと思う人」は小池百合子氏51%、宇都宮健児氏10%、山本太郎氏8%、小野泰輔氏7%、立花孝志氏2%。女性に限れば、小池氏は60%と圧倒的だ。ただし「あくまで全国調査の結果であり、都知事選の情勢には直結しない。ただ、『関心がない』が14%にとどまり注目度は高い」としている。

 世論調査といえば、産経がミソを付けた。不正データ入力が発覚し、「(昨年5月以降の)計14回の世論調査の結果を伝えた記事をすべて取り消します」(20日付)という前代未聞の事態だ。委託業者が電話をかけずに架空回答していたという(もっとも産経の調査結果は他紙とさほど変わらなかったように思うが)。

 これを受けて毎日は「不正できぬ仕組み/社員立ち合い」(21日付)と自社の世論調査に胸を張っている。小池断トツ人気の調査結果にも自信があるということか。

 今回は「3密」を避けるコロナ禍の都知事選。ひと昔前は「首都決戦」と称されたが、与野党そろって公認候補を擁立しない。言ってみれば小池か、非小池かのワンイシュー(単一争点)、それも人気投票の様相を呈している。

 だが、過去に都知事選を人気投票化し、都政を停滞させた苦い経験がある。その一人はマルクス経済学者の美濃部亮吉氏(任期1967~79年)。「福祉の美濃部」を標榜(ひょうぼう)し、バラマキで都財政を破綻寸前に陥れた。もう一人はタレントの青島幸男氏(同95~99年)。世界都市博覧会中止のワンイシューで、当選後は都政を役人に丸投げし、首都を著しく停滞させた。それだけに人気投票は危うい。

 小池氏はどうか。3月の「ロックダウン」発言以降、テレビに出っぱなしで、作戦勝ち? おまけに告示日の新聞には「河井元法相・案里氏 逮捕へ」(朝日18日付)の見出しが躍った。それ以降も買収事件一色で、都知事選はサブ扱い。知名度の高い小池氏には都合のよい展開だ。

◆戦線離脱の朝日・東京

 社説に目を通すと、朝日と読売は告示5日前の13日付に掲載しただけ(21日現在)。朝日は「小池都政4年 『事実』で功罪見極めを」、読売は「コロナ後の展望を論じたい」。どちらも通り一遍の内容だ。産経は「討論会で具体的政策示せ」(16日付)、「コロナ後の将来像も示せ」(18日付)と2度も政策論争を促したが、自身は具体論や将来像を示さず迫力不足。

 地元紙というべき東京の社説「コロナ禍に託す候補は」(19日付)に至ってはさらに平凡。選挙の解説ばかりで「説」(説かれた考え)がなく、有権者の心に響かない。朝日と東京は戦線離脱、読売と産経は小池都政に優柔不断。左右そろって不甲斐(ふがい)ない。

◆「脱東京」を打ち出す

 そんな中、独り気を吐いているのが毎日だ。18日付社説は「巨大都市リスクの論戦」を迫り、21日付社説はさらに踏み込み「コロナ禍と一極集中 『脱東京』今度こそ推進を」と、大胆に「脱東京」を打ち出した。都知事選で「脱東京」はユニークである。

 毎日が言うには、全国的な人口減の中、東京の人口は初めて1400万人を突破、一極集中がさらに進んだ。首都圏だけで人口や国内総生産(GDP)の3割を占める。コロナ禍だけでなく、30年以内に70%程度の確率で起きる首都直下地震、2035年には都民の4人に1人(約350万人)が高齢者となる。人と経済が東京に集中する、日本が抱える弱点が改めて浮き彫りになっている。

 「東京都知事選の論戦だけで終わらせてはならない。『脱東京』を今度こそ、政治のメインテーマに据える時だ」

 説得力がある。粗探しだけでなく、骨太の国家像を提示するのも言論の責任。毎日がそう考えるなら世論調査の“人気投票”も是としよう。

(増 記代司)