米サウジ関係悪化、中東で新たな軍拡競争かと警鐘を鳴らす香港紙

◆米大統領が最後通告

 米・サウジアラビア関係の悪化が伝えられている。サウジが原油の減産に応じず、価格が暴落したことが一因とみられ、米政治専門紙ザ・ヒルは、「トランプ氏はついにサウジを見限ったのか」と報じた。

 トランプ米大統領は4月初めに、サウジの実権を事実上握るムハンマド皇太子との電話会談で、原油増産をやめなければ、サウジからの米軍撤収もあり得ると「最後通告」を突き付けたことが先月末、報じられた。

 長年の同盟国であり、大口の武器売却先であるサウジへの強い圧力自体、異例のこと。一昨年のジャマル・カショギ氏殺害に皇太子の関与が指摘された際も、武器売却への影響を避けるために、あえて不問に付したトランプ氏だけに、原油価格下落による損失に怒りが収まらなかったということか。

 そして7日、米紙ウォールストリート・ジャーナルが、サウジからのパトリオットと戦闘機F15の撤収を報じた。

 昨年のイランからのサウジへの石油精製施設へのミサイル攻撃を受けて、配備されていたもの。米政府は、イランの脅威が減少したためと説明するが、イランによる米艦艇に対する嫌がらせは続いており、4月には初の人工衛星を打ち上げたばかりだ。これによってイランの作戦能力は強化されるとみられ、ペルシャ湾岸情勢は安定しているとは言えない状況だ。

 ザ・ヒルは、「皇太子を締め上げるために米軍撤収というカードを切ったのか。それとも、両国関係を主導するのはどちらかを知らせたかっただけなのか」と推測している。

 トランプ氏は昨年10月、駐留費用を全額サウジが支払うことで合意したと述べており、駐留費をめぐる食い違いが一因の可能性もある。

◆核保有近づくイラン

 一方で、米軍の撤収によって、中東での軍拡競争が激化するとの見方も出ている。

 香港紙アジア・タイムズは、「サウジは撤収を、米国が頼りにならないことの証拠と捉える可能性がある」と指摘、今後、サウジが自国での兵器の開発、製造を推進するのではないかと指摘した。

 同紙はイランの衛星打ち上げについて、米国とイスラエルの対イラン強硬派が「イランのミサイル能力が向上する」と懸念していることを明らかにしている。

 ムハンマド皇太子は、トランプ氏が一昨年、イランとの核合意から離脱する直前、「イランが核爆弾を開発すれば、直ちに追随する」と述べ、核武装の意思を明確にしていた。

 米国の核合意離脱後、イランはウラン濃縮を再開し、以前よりも核兵器保有に近づいており、サウジにとっては懸念材料だ。

 今月に入って公表された米議会付属の政府監査院(GAO)の報告によると、原発開発をめぐる米国との交渉で、サウジがウラン濃縮や再処理に関する制限の受け入れに難色を示し、交渉は暗礁に乗り上げているという。またこの報告によるとサウジは、核開発をめぐる情報提供を求める国際原子力機関(IAEA)追加議定書の署名をも拒否している。

◆中国の影響見え隠れ

 さらに同紙によると、中国の影響も見え隠れする。

 同紙によると中国は2017年に、サウジに無人機の工場を建設。中国初の海外の軍事企業だという。無人機は近年の紛争で活躍しており、今後さらに活用されることは明らかだ。

 シンガポールの中東研究所の無人機専門家は、「中東が無人機戦争の戦場になった」と指摘、「無人機配備は、コロナ後の新時代の抑止力への先駆け」と指摘。サウジの武器生産が、イエメン、リビア、シリアなど紛争地帯を抱える中東の不安定化につながるのではないかと警鐘を鳴らしている。

(本田隆文)