緊急事態宣言、ストレートに外出自粛の行動を呼び掛ける産経に好感

◆「日本型の戦い」決断

 阪神・淡路大震災、東日本大震災とは違った国難である。中国・武漢市(湖北省)から始まり世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス禍の蔓延(まんえん)阻止のため、安倍晋三首相は7日に感染者が急拡大する東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令した。期間は5月6日までの1カ月間である。

 宣言の名称は重々しく聞こえるが、事態を鎮静化させるために、外出自粛をして人と人との接触を極力減らしてほしいと政府が国民に要請しているのである。中国や欧米のように交通遮断や外出を禁止して都市封鎖(ロックダウン)を行うわけではない。政府の専門家会議が先月中旬に提唱した、感染爆発の緩やかな抑制を目指す「日本型の対策」を模索してコロナ禍と戦うのである。

 感染拡大の阻止とそのための行動制限による経済的打撃――安倍首相は両にらみの中で「日本型の戦い」の政治決断をしたのだ。

 翌日の新聞論調は、安倍首相の政治決断について社説(主張)だけでなく論説幹部などの記名原稿を掲載して言及した。「あとは、私たちの意志と忍耐力がカギを握る」「今は戦争ではないが、平時でもない。皆で毅然(きぜん)とこの危機と戦いたい」(読売8日付〈以下、同〉飯塚恵子編集委員)。「実際に宣言の『効能』をどこまで高められるかは一人ひとりの行動にかかっている」(朝日・佐古浩敏ゼネラルエディター)などと私たちに自覚と冷静な行動を促した。

 日経は「今は人々がウイルス封じ込めに力を結集するときだ」「日本の民主主義社会の強さが試されているといってよい」「そのためには市民の冷静な行動が必要だ」(藤井彰夫論説委員長)。本紙は「宣言を出したことの重みは国民に伝わったはずだ。/強制性がない状況の中で、宣言を有効有らしめ、感染を終息へと向かわせることができるかどうかは、結局われわれ一人一人の行動にかかっている」(社説)ことを強調した。

 いずれの論調も、緊急事態宣言による緩やかな制限の要請を受けて、私たちに危機感を持ち冷静に行動することを求めた。中には、もっとストレートに「緊急事態宣言がコロナ禍を克服してくれるわけではありません。事態を鎮静化させるのは、あくまでも、私たちの行動そのものです」「勇気を持って共に耐え、外出自粛に協力しましょう」(産経・井口文彦編集局長)と呼び掛けたのは、事態が事態だけに好感が持てる。

◆正当な手続きで発令

 社説の方では、今回の宣言が「専門家で作る諮問委員会の意見を聞き、国会に事前に報告した。丁寧な手続きを踏ん」(読売)で出されたことを評価。朝日も「宣言の内容は特措法で定められた諮問委員会の意見を踏まえた。首相による国会への事前報告と質疑が行われたことと併せ、その手続きに一定の透明性は確保された」と言及したように、正当な手続きで出たことを認めた。

 また各紙とも異口同音に、外出を控え「接触の8割削減」や密閉、密集、密接の「3つの密」が重なる空間を避ける日常生活を促すことなど、首相の記者会見での説明を説いた。その一方で、政府の国民への丁寧な説明と情報発信の継続が重要であることを指摘したのである。

 その中では日経が「接触の8割削減」について「ドイツ並みに1人の感染者が2・5人に感染させるとした場合、感染を減少に転じさせるには、接触を8割程度減らさねばならない」という北海道大学の西浦博教授(政府委員)の試算を紹介。二言三言、語り掛けたり、ポンと肩たたきするのを1回の接触と数え「こうした行為を極力減らそうと意識すれば、爆発的な感染が広がるリスクを下げられる」可能性に言及したのは具体的で分かりやすい主張である。

◆新聞も丁寧な報道を

 また産経が宣言の対象となる7都府県に東京に次いで死亡者数が多い愛知県が含まれなかった理由に言及。「感染者数が倍増する速度が遅く、感染経路不明者が比較的少なかったから」と説明して疑問に答えた。政府に迅速、的確な情報発信を求めるのなら、新聞も丁寧に情報を伝えて読者の期待に答える心掛けを忘れてはならない。春の新聞週間である。(堀本和博)