新型コロナ禍拡大の中で中国新華社の呆れた「脅迫」記事を伝えた本紙
◆日本に注目する欧米
感染の拡大阻止、経済対策、2020東京五輪の約1年延期開催などなど。中国・武漢市(湖北省)から世界中に拡大し猛威を振るう新型コロナウイルス禍の溢(あふ)れ返る報道の中で拾った有益な情報をウオッチしていきたい。今は何よりも冷静沈着な対応が求められているから。
また本紙掲載記事からで恐縮だが、昨日付のベルリン時事は、日本の感染者数が統計上は先進国中で圧倒的に少ないことに欧米メディアが注視し始めたことを伝えた。日本は「検査不足で実態が反映されていないのか、それとも感染抑止で『健闘』しているのか」の見極めである。世界保健機関(WHO)は「単純に検査数で是非を判定するのには慎重な姿勢」だとも伝える。
そして、独誌が少ない検査数への批判と「疑いが強い例に絞り効率的に検査している」との両論併記。米通信社の「検査数が多いイタリアより致死率が低いことも紹介。握手やハグの少なさ、手洗い習慣などを肯定的な要素」に挙げたことを紹介。WHOが「検査徹底が最重要とする一方、検査数に表れない対策もあるとの認識を示した」と記事をまとめた。日本の対応の是非を判断するには、なお時間が必要で決して油断できないが、感染抑止のヒントが見つかるかもしれない。
もう一つも昨日付の本紙掲載の時事通信記事。新型コロナウイルスに感染したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗船者を受け入れた自衛隊中央病院(東京・世田谷区)がまとめた陽性者104人の症例報告。医療従事者向けに、同病院のホームページに掲載された報告では、入院時に約8割が無症状か軽症だった。しかし、コンピューター断層撮影(CT)では「その約半数の肺に異常な陰影が認められ」た。それでも「その約3分の2は症状が変化することなく回復したが、残る約3分の1は悪化した」。悪化で酸素投与が必要となったのが「全体の13・5%で、その約半数は高流量の酸素が必要だった」という。同病院での死亡例はなく、記事は「適切な酸素投与などの対応を取れば、救命可能な症例は多い」との病院側コメントを紹介している。関係者には貴重、極めて有益にまとまった症例報告だと言えよう。
◆急がれる治療薬開発
次はコロナ治療薬について。新型コロナウイルス禍の拡大を世界中が恐れるのは、まだ有効な治療薬がないから。治療薬の開発、実用化は今、世界中の最大の関心事である。
日経(19日付)は第1面トップ記事「コロナ治療薬 実用化急ぐ」で、新型コロナウイルスの治療に、新薬の開発に先立って「既存の抗ウイルス薬が有望だとわかり、早期に使える可能性が出てきた」と報じた。その候補に富士フイルム子会社が開発したインフルエンザ薬「アビガン」と米社のエボラ出血熱薬「レムデシビル」が特に有望視されているというのだ。
アビガンは中国では医療現場で使用を推奨され、日本では治験準備中。レムデシビルは「4月にも臨床試験(治験)の結果が出る見通し」で、「実用化できれば世界規模の死者増加を抑え、経済への打撃を緩和することにもつながる」期待が膨らむ。
日経は21日付でも、重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生から半年で終息したために、開発が中断した治療薬候補の一つ「カレトラ」が「国内の患者の治療のために試験的な投与が始まっている」ことなどを報じた。記事は新型コロナの侵入メカニズムなど、分かってきた研究成果などを専門的に解説していて、やや難しいがコロナ克服のため医学の進展具合は伝わってくるのである。
◆中国に医薬品頼る米
一方で、こうした医薬品製造の大半を中国に頼っている現状に、米国では警戒感が出ている。期せずして、本紙(23日付)はこの動向をワシントン電(山崎洋介記者)とアメリカ保守論壇(マーク・ティーセン氏)が、この問題を取り上げた。
「中国が医薬品輸出の禁止を発表すれば、米国はコロナウイルス流行の地獄に陥るだろう」。中国国営通信の新華社がこの4日に、「米国脅迫」ともとれる呆(あき)れた記事を発表したことが、大きな波紋を呼んでいるのだ。こちらも留意が必要である。
(堀本和博)