新型コロナ禍で「ベアゼロ」春闘に理解の読売、「便乗」と批判の毎日
◆日本型雇用の転機に
自動車、電機など大手企業の2020年春闘は、相場形成を主導するトヨタ自動車が13年以来7年ぶりに、基本給を底上げするベースアップ(ベア)を見送る「ゼロ」回答とするなど、前年割れも相次ぎ、総じて厳しい内容となった。
新聞各紙の論説陣は新型コロナ禍に関し、国内対策や株式市場の世界的株安連鎖への対応などで社説をたびたび掲載しているからか、春闘については3紙にとどまった。12日付読売「春闘賃上げ回答/労使協力で苦境乗り越えたい」、日経「賃上げを再起動するときだ」、15日付毎日「春闘の低額回答/新型コロナに便乗なのか」である。
見出しに示した通り、読売は経営側に同情的なのに対し、毎日は厳しい論調を示した。日経もやや厳しいと言えるが、賃上げ低調の原因や背景を探り前向きな提言も見られた。
まず読売は、ベア前年割れが相次いだ背景には新型コロナウイルスの広がりの影響が大きかったのだろうとし、結果、20年3月期決算は大幅な減益や赤字に陥る企業が増えるとみられ、「経営側が人件費の負担増を懸念し、賃上げに慎重になったのはやむを得ない面がある」とした。
ベアゼロのトヨタだが、定期昇給を含む賃上げ総額は、前年を2100円下回ったものの、月額8600円を回答。同紙は、ベアによって一律に近い形で賃上げするのではなく、能力主義に基づく賃金体系に変えたいとの会社の意向もあったのではないかと指摘し、「年功序列に代表される日本型雇用の転機になる可能性がある」とみた。
同紙は「ただ、賃上げを継続する重要性は変わらない」とし、また、経営側は出産・育児をしやすい職場づくりや福利厚生の充実などにも取り組み、従業員のやる気向上に努めるべきだ、としたが尤(もっと)もな指摘である。
◆賃上げ一辺倒の毎日
これに対し、「新型コロナウイルスの感染拡大で消費者心理が萎縮する中、景気を一層冷え込ませかねない」としたのが毎日である。
同紙は、トヨタの豊田章男社長が「高水準の賃上げを続ければ競争力を失う」と発言したことに対しても、「日本の賃金水準は00年代以降の大企業による人件費抑制で低迷を続け、欧米など主要国中で最低レベルとなっている」とし、トヨタなどの回答を見ると「かつてのベアゼロ時代への逆戻りさえ懸念される状況だ」と厳しく批判した。
毎日の見方は一理あるが、賃上げ一辺倒で労組側のみの論理に終始。景気や業績の先行き懸念が高まっているのは確かだとしながらも、「法人税減税や円安の恩恵を享受してきた企業は、18年度で463兆円もの現金など内部留保を抱えて」おり、見出しに取った「余力があるにもかかわらず、新型コロナに便乗して賃上げを渋っているように見える」とした。
ただ、この463兆円もの内部留保は全てが現金というわけではなく、同様に日本企業が資金を持て余していることを「問題」とした日経が示す(18年度で上場企業が保有する)現預金116兆円というのが正確である。
◆社会保障改革も重要
毎日と似た批判のある日経だが、同紙は経営者が自社の強みを生かす明確な成長戦略を描き、付加価値の高い事業の創造に向けて積極的に投資する必要があると訴えた。
また、社会保険料の増加が賃上げを抑えている面もあるとして、社会保障改革も重要だと強調。さらにデジタル化が進む中で企業が成長するには成果重視の処遇制度が欠かせないとして、「賃金制度改革に労組も積極的になるべきである」としたが、妥当な提言である。
(床井明男)





