首相在職歴代最長を評価しつつも、長期政権の緩みを戒めた日経など
◆二分された各紙論調
「首相が重点政策や憲法改正の実現を訴えていくうえでも、国民の信頼が基礎となる。自ら好んで使う『築城三年、落城一日』の戒めを改めて胸に刻むべきだ」(日経20日付社説、以下各紙同)。
安倍晋三首相の首相在職日数が20日で、短命に終わった第1次政権と合わせた通算で2887日となり、戦前の明治、大正時代に3回政権を担って1位だった桂太郎首相を抜き歴代最多となった。政権は長ければいいというものではないとはいえ「長期政権が日本の政治を安定させ、外交を有利に導いてきたことは間違いない」(産経・主張)。まずは評価すべきである。
各紙の論調は冒頭のように、安倍政権のこれまでを肯定的に評価しつつも、長期政権に付きまとう政権の緩みを厳しく戒め課題の実現を求めたものと、弊害の批判を強めて否定的に論じるものに分かれた。社説などのタイトルを並べるとそれは一目瞭然で、次のようになる。
◆経済・外交などで実績
日経「最長政権に恥じない改革の総仕上げを」、産経「緊張感保ち難局に当たれ」、読売「惰性を戒め政策で結果示せ」、小紙「初志貫徹し憲法改正の実現を」。対する毎日が「『他にいない』はいつまで」、朝日はずばり「『安定』より際立つ弊害」である。
まず日経は経済に重きを置く視点で「首相は経済運営の柱に『大胆な金融緩和』を据え、株高や円安によって景気回復の流れを定着させ」たことで「企業収益や雇用情勢の好転を追い風に安定政権を築き、国際社会で日本の存在感を高めた」ことを認めた。読売も経済政策では「アベノミクス」が「大胆な金融緩和や機動的な財政出動により、景気を回復軌道に乗せた」こと。外交や安保では「集団的自衛権の限定的行使を認めた安全保障関連法を15年に成立させ、日米同盟を強化し」関係づくりが難しい「トランプ米大統領とも信頼関係を築いた」ことなど「経済政策や外交の実績が国民の支持につながった」と評価したのである。
産経も経済、安保政策で同様に言及した上で「自由貿易の推進などの経済活性化に取り組んできた」ことにも触れた。日経も環太平洋連携協定(TPP11)などで「世界で自国中心主義的な動きが目立つなかで、自由で公正な貿易ルールを重視する姿勢を示した意味は大きい」と評価した。
4紙はこうした評価を基に、政権への戒めと課題の実現を求めた。日経は少子高齢化問題などに対する「『全世代型社会保障改革』の看板が泣く」と社会保障制度の抜本的改革を求め、読売も同制度の「見直しが急務」とし強調。加えて、実感が乏しい景気回復にも触れ「底堅い企業業績を賃上げにつなげ、経済の好循環」の実現を求めた。産経と小紙は特に憲法改正と拉致問題の進展を訴えた。
一方で2人の重要閣僚が不祥事で辞任したことや桜を見る会の運営に批判が集まっていることに「長期政権のゆるみが出ているのは極めて残念」(産経)、「長期政権の緩みや驕(おご)りの表れ」(読売)などと安倍内閣に綻(ほころ)びが目立つことを憂慮した。また産経は脅威を強める中国の習近平国家主席に対する安倍首相の姿勢が「危うい対応である」と警鐘を鳴らした。いずれもうなずける主張である。
◆全面否定の朝日社説
さて、朝日は安倍政権が「年を追うごとに弊害の方が際だってきた」と批判する。それが長期政権で政府内にはびこるようになった忖度(そんたく)で、森友問題を持ち出す。「『桜を見る会』の招待者をめぐる問題も根っこは同じ」だとつなげる。もう一つは「集団自衛権の一部行使に道を開いた」ことが「これほどまでに日本国憲法をないがしろにした政権は、過去に例がなかろう」と、4紙の評価とは真逆の主張である。
毎日は世論調査で安倍内閣支持の理由の多くが「他に良い人や政党がないから」だから積極的支持ではないと主張。アベノミクスの効果や景気回復の評価、北方領土問題や拉致問題の外交などに懐疑的見方を示すが、どこか煮え切らない。同じ毎日では2面の古賀攻・専門編集委員のコラムの方が読める。味があるから。
(堀本和博)