「声」に一つもない国際的影響の指摘 朝日新聞 大虚報の“ツケ”(下)

被害責任を限定したい本音

800

朝日新聞が折り込み広告チラシと一緒
に配った愛読者への「おわび」チラシ

 朝日新聞は9月11日夜に木村伊量(ただかず)社長が謝罪会見してから1週間ほどの間に、二つの虚・誤報問題をテーマとした読者の投稿をオピニオンページ「声」に計22本掲載した。その中には「初めに結論ありきの裏付けのない報道だったと思われる」(滋賀県、高校生17)など、これまでは「反朝日キャンペーン」と切り捨ててきた報道姿勢をめぐる意見や偏向批判まで掲載している。

 ところが、千本からの投稿があるのに、読者から来ていないはずのないある種の投稿だけは一つも見当たらない。慰安婦虚報により「性奴隷」などの表現で、日本の間違ったイメージを国際社会に拡散されるまでになった問題を指摘した投稿がないことである。

 「吉田調書」記事と慰安婦報道の二つの朝日新聞の虚・誤報のうちでも、今日とこれからの日本及び日本人にとって、より重要な問題は慰安婦虚報である。1982年に「済州島で慰安婦を強制連行した」とする吉田清治氏(故人)の証言を手始めに、「強制連行」を前提とした報道は90年代も続いた。済州島の地元紙(韓国紙)や研究者らが証言の虚偽を公表しても、なお証言の成否の決着をつけることを放置してきた。

 この結果、虚偽の証言を軸とした32年間にわたる慰安婦報道キャンペーンで日本及び日本人が貶(おとし)められてきたのである。被害回復を図る責任は当然、朝日新聞にはあり、その“ツケ”を支払わなくてはならない。

 安倍晋三首相は、木村社長の謝罪会見当日の午後、ニッポン放送番組(ザ・ボイス そこまで言うのか!)で「慰安婦問題の誤報によって多くの人が苦しみ、国際社会で日本の名誉が傷つけられたことは事実と言ってもいい」と語っている。NHKの日曜討論(14日)では「(朝日は)世界に向かってしっかりと(誤報を)取り消すことが求められている。朝日新聞自体が、もっと努力していただく必要がある」「日本兵が人さらいのように慰安婦にしたとの記事が世界中で事実と思われ、非難する碑ができている」とコメントした。

 今回の慰安婦虚・誤報問題で、安倍首相の最大の関心事はこの点にあることを明確化しているのである。

 一方、朝日新聞はこのことの評価を最小限にとどめたいのは明らかだ。謝罪会見で木村社長は、「甘い」と批判のある8月に掲載した慰安婦報道の検証特集を「内容には自信をもっている」と胸を張った。それでいながら、再度の検証を第三者機関で行い、改めて紙面で公開するとした。“丸投げ”した検証には、虚報が及ぼした国際的影響についての評価も含まれるが、第三者機関を盾にして評価を何とか限定されたものにとどめたい。それが朝日新聞の本音であろう。

 そのためには、第三者機関の検証中に、読者の「声」でどれだけ朝日の取材の在り方や報道姿勢、偏向問題を批判されてもそこまでは仕方ないが、虚報による国際的影響についての投稿は封じ、このテーマの論議が活発化するのを回避したいのだと思われる。

 もう一つの問題は、2日にわたり計4ページも割いて検証特集をしながら、取り消した16本の記事がどれかを朝日新聞が公表していないことである。訂正記事は普通「〇月〇日の〇〇記事のうち〇〇を〇〇に訂正します」とか「〇〇記事を取り消します」とするもの。だが、朝日新聞は取り消した16本の記事について、1982年9月2日(大阪本社版)の慰安婦問題初報以外に、その日時などを示していない。

 このため、29日に「訂正の訂正をした」検証特集が言う通りに、虚報記事が本当に16本だけなのか確かめられないこと。取り消し、データから削除した記事は説明通り、吉田証言による記事だけなのか、などの疑問は消えない。虚・誤報記事に関する、正確な情報公開をする責任も、まだ残っているのである。

(編集委員・堀本和博、片上晴彦)