「君が手に花冷えの手重ねけり」。先日亡く…
「君が手に花冷えの手重ねけり」。先日亡くなったエッセイストの木村梢さんが、夫で俳優の木村功さんのことを詠んだ句だ。梢さんがエッセーを書くようになったきっかけは、夫の死だった。
最初の著書『功、大好き』(講談社)は、1982年に出されて半年後には40万部のベストセラーに。友人や家族に勧められて書き、題名は出版社が付けた。「私には抵抗があって恥ずかしかったんです」と取材で語ってくれた。
「息子なんかだめなんですよ。近所の人から、お母さんが本を出されたそうですね、どんな題名なんですか、ときかれると、いえ、言えません、としか答えられないんですから」。
流行作家の邦枝完二の長女として生まれ、16歳の時に功さんと出会い、21歳で結婚した。父親は収入のない男との結婚に大反対し、承諾をしたのは6年後、夫が俳優として将来を嘱望されるようになってから。
著書の前半部は、夫がガンで入院してからの看病日記がそのまま使われている。題名の言葉は死が近づいていた時の会話から抜粋された。夫は底抜けに明るく、気持ちの通った親友のようでもあった。
しかし、一生悲劇的なものが影のように尾を引いていたという。両親を広島の原爆で亡くし、戦災孤児に。映画界が華やかな頃、独立プロで主役のいい仕事をたくさんした。家庭生活も幸せだったが、劇団の倒産で借金が残された。著書の出版記念会は夫妻の友人たちによる激励でもあった。