「間尺に合わない」とは、努力に見合う利益…


 「間尺に合わない」とは、努力に見合う利益を得られないことをいう。昔、工学部の学生を前に、ある教官はよくこの言葉を出して訓を垂れていた。大学生レベルの電気回路の出力計算にプログラムを作ってコンピューターを回すのは愚の骨頂、機械式計算機で十分満足な答えが出せる、計算手段はその目的や用途に合ったものを、と。

 米IT大手のグーグルは、最先端のスーパーコンピューターで約1万年かかる計算問題を、同社開発の量子コンピューターがわずか3分20秒で解いたと発表した。この極端な数値差に驚かなかった人はいないだろう。

 これに対し、商売敵の米IBMの研究者らは同じ問題を「スパコンで2日半で解ける」と主張している。実際はどうなのか。技術の可能性や用途について見通しを誤れば、今後の開発は大きく迷走しかねない。

 量子(素粒子)には、2粒子が強い相互関係にある「もつれ」という特徴がある。今回の成果は、その極微世界の理論を使って新しいコンピューターを開発するメドが立ったということだとの冷めた評論もある。

 今年のノーベル化学賞を受賞する吉野彰・旭化成名誉フェローが開発したリチウムイオン電池を見ても、実用化されるまでに大容量電池のアイデアの内容は変転を繰り返した。リチウムイオン電池は死屍累々(ししるいるい)の試作品の後に咲いた花だ。

 期待が大きな量子コンピューターだけに、バラ色の将来を説くのみでは十分でない。