魚好きの日本人にとって、鯛(たい)は特別な…


 魚好きの日本人にとって、鯛(たい)は特別な位置を占めている。その付き合いは古く、縄文時代の貝塚からも鯛の骨が出てくる。味が良く、比較的日持ちがし、周辺のほとんどの海で取れる。

 日本人が鯛を好んできた最大の理由は、その姿の美しさにある。鮮やかな桜色、大きな頭と立派な背びれや胸びれ。尾頭付きで丸ごと料理されることが多いのもそのためだろう。

 婚礼の祝いなどハレの料理に鯛は欠かせない。大相撲の優勝力士は、大きな鯛を片手にぶら下げて記念撮影するのが恒例になっている。たとえ夏場所でも、カツオでは様にならない。

 そういうこともあり、7日付本紙1面の「ゲノム編集によって肉厚に改良された鯛」の写真を観(み)た時は「何だこれは」と思った。真鯛の色はしているが、形はウミタナゴかメジナのようだ。通常の餌の量で身が多く取れればコストダウンになるというが、これを鯛と言えば本物の鯛が怒るだろう。

 遺伝子を効率良く改変し、品種改良を短期間で進めるゲノム編集技術を使った食品を国に届け出る制度が今月から始まり、年内にも流通する見通しという。このうち遺伝子を切断したものについては「通常の品種改良と同程度のリスクと考えられるため」安全性審査を義務化しなかった。本当に大丈夫だろうか。

 ゲノム鯛は養殖生け簀(す)で育てられるだろうが、台風などで生け簀が壊れれば天然の真鯛と交雑する恐れもある。いろいろと問題は多いように思われる。