一年中、世界中の果物が食べられる現代の…


 一年中、世界中の果物が食べられる現代の日本だが、秋ならではの日本の果物がある。モモ、ナシ、ブドウ、クリなどだ。9月に入っても暑い日が続くが、みずみずしくて甘く、しゃりしゃりした歯触りのナシはたまらなくうまい。

 日本のナシは野生のヤマナシから改良された文化財的存在。万葉集には植物の実を詠んだ戯(ざ)れ歌がある。「梨(なし)棗(なつめ)黍(きみ)に粟つぎはふ田葛(くず)の後も逢はむと葵(あふひ)花咲く」。物数詠みの歌で大した意味はない。

 ナシはその頃から栽培が奨励された果物で甲斐、信濃、因幡などから献上されたと『延喜式』にある。どんな味だったのかは想像するしかないが、現代のものほど甘くはなかったに違いない。

 品種改良が進むのは江戸時代で100種以上現れ、庶民の喉を潤した。が、現代人が食べているものとは程遠かっただろう。明治時代に赤ナシの長十郎と青ナシの二十世紀が登場し、この赤ナシから戦後、新品種が生まれた。

 1959年幸水、65年新水、72年豊水。水はみずみずしさを表している。品種改良は続けられ、埼玉県が豊水と新高を掛け合わせてオリジナル品種として育成し、2005年農林水産省に登録されたのが彩玉(さいぎょく)だ。

 大玉で糖度が高い。蓮田市高虫で果樹園を営む廿浦(つづうら)敏雄さんも彩玉の栽培を手掛けている。「結果が楽しみで生きているようなもの」。9月初旬が出荷期で「切って皮をむき、芯を取って、ラップで包んで冷やして食べてください」。美味(おい)しく食べる方法だ。