<タイフーンの吹いている朝/近所の店へ…


 <タイフーンの吹いている朝/近所の店へ行って/あの黄色い外国製の鉛筆を買った>。西脇順三郎の詩「秋」の前半である。終わりはこう結ばれる。<門をとじて思うのだ/明朝はもう秋だ>。

 超現実派の西脇の詩には難解なものも少なくないが、この詩の味わいはよく分かるという人が多いのではないか。ただしそれは、台風一過のすがすがしい天気を体験してきた日本人に限られる。

 台風15号が首都圏を通過し大きな被害をもたらした。千葉県では停電や断水が続いている。そして台風一過後の爽やかな秋晴れとはならず、真夏の猛暑が戻ってきた。

 名古屋市では県立高校の体育祭で後片付けをしていた生徒15人が熱中症で救急搬送された。9月の秋空の下で普通に行えた運動会。それができなくなりつつある。

 地球温暖化によって、かつて日本人の季節感をはぐくんできた気候的な前提が崩れつつあるのは確かだ。山内静夫さんは随筆集『かまくら谷戸の風』(冬花社)に「私が不安なのは、日本の気候である。日本の気候は、こんな大雑把なものではなかった」と書いている。

 山内さんは松竹のプロデューサーとして小津安二郎監督の映画製作に携わった人で、鎌倉文学館館長などを務めた。現在95歳。今も元気に随筆を書いておられるが、極端に暑くなったり寒くなったりするのはこたえるという。そしてそれ以上に、季節の移り行きに味わいがなくなったことを嘆いている。