「日本一シャッターを切らない写真家」と…


 「日本一シャッターを切らない写真家」と自身を語る写真家がいる。自然写真家の嶋田忠さんだ。冗談交じりにこう語る理由は、独自の撮影方法にある。

 嶋田さんが北海道やパプアニューギニアで撮影してきたのは、鳥類だったが、鳥たちは常に動き続けている。ひ弱なスズメも一瞬の羽の動きで力強く飛び、モズは自分よりも重いネズミを一撃で仕留め、軽々と飛び去ってしまう。

 羽繕いも振り向くしぐさも、瞬間の動作の連続だ。人間の眼(め)は連続的に見ることはできるが、瞬間を止めて見ることはできない。嶋田さんはその瞬間を脳裏に移し、写真で捉える技術を習得してきた。

 写真展「野生の瞬間」が東京都写真美術館で開催中だ。武蔵野の農家に生まれ、幼少期から野鳥を捕らえて飼育に熱中してきた。高校2年の時、尊敬する母の死をきっかけに飼育をやめた。

 代わりに始めたのは「探鳥」だった。研究とか撮影の気持ちはなく、鳥を眺めていれば幸せだった。飛ぶという彼らのすさまじい能力に魅了され、鳥への畏敬の念は揺るぎないものになっていく。

 最初の写真集は『カワセミ 清流に翔ぶ』(1979年、平凡社)。太陽賞や日本写真協会新人賞を受賞しただけでなく、日本鳥類学会から特別表彰された。知識や視点が専門学者まで感動させた。嶋田さんは鳥の生命に完全に共鳴し、鳥はあらゆる神秘を嶋田さんに開示する。観察する時間と比べれば、撮影時間はごくわずかなのだ。