世界各地に散逸していたユダヤ人作家フランツ…


 世界各地に散逸していたユダヤ人作家フランツ・カフカの遺稿が、イスラエル国立図書館の手で集められ、ようやく揃(そろ)ったと発表された(小紙8月12日付)。その間に法廷闘争があり、11年の歳月を要したという。

 イスラエルがいかにこの作家を大切にしたかが分かる。カフカはチェコ出身で1924年に亡くなったが、闘病中に友人のマックス・ブロートに書簡や原稿を託して破棄するように遺言。

 管理を任せられたブロートは破棄せず、カフカの没後に出版。ブロートは39年、ナチスに支配されていたチェコスロバキアから逃れて遺稿をパレスチナのテルアビブに運んだ。が、68年のブロートの死後、遺稿の一部は盗難や売却で散逸した。

 カフカの作品は20年代にドイツ語圏で、30年代にはフランス、英国、米国で評価が高まっていった。奇妙で不条理なイメージの物語の数々は、崇拝者の間でも解釈が分かれた。

 没後20年の44年、政治哲学者のハンナ・アーレントは「フランツ・カフカ 再評価」を書き、一つの本質的な点で崇拝者らの意見が一致していたと述べる。それは「ある種の現代性の特質」に衝撃を受けたということ。

 彼女は小説『審判』『城』について解説し、描かれた悪夢は「実際本当にやってきた」という。それは彼女らの世代が体験したことで、カフカは非常に恐ろしい官僚制について表現していたのだと指摘する。カフカの小説はユダヤ人にとって予言書でもあったようだ。