「ミクロネシアの離島に住む航海者たちは…


 「ミクロネシアの離島に住む航海者たちは、カヌーの揺れ具合や船体にあたる水の音によって、方角や自分がいる位置を把握する能力を持っている」。冒険家の石川直樹さんが『全ての装備を知恵に置き換えること』(集英社)で記した一節。

 今、カヌーに当たっている波が自然発生によるものか、海流によるものか、島にぶつかってはね返ってきたものか、体で感じ分けるという。石川さんは航海術を学びつつ同じ能力を身に付けたいと願う。

 現代の冒険家たちの中には、登山でも、航海でも、極地行でも、純粋でシンプルなものを追求する人たちがいる。その一人が登山用品であるパタゴニア製品の生みの親イヴォン・シュイナードさん。

 石川さんは同書で彼の料理教室の模様を紹介。イヴォンさんは鍋もコンロも使わずにパンを焼き、魚料理を作ってみせた。使ったのは石と焚(た)き火と水と川で捕った魚だけ。シンプルなものの追求だ。

 時代の最先端で起きていることだが、一方、考古学の分野では、国立科学博物館などのプロジェクトで3万年前の日本人の先祖による航海を再現し、丸木舟での台湾から沖縄・与那国島への航海に成功した。

 現代の科学と装備をそぎ落とし、古代人に近づこうとする試みであるが、彼らは現代人が失ったものを豊かに保持していたと思われる。体で自然を認識する力であり、自然と調和して生きる知恵だ。古代人は現代の冒険家から見れば、先を行く人たちのようである。