5月の声を聞くと、自然の風物が若々しく…


 5月の声を聞くと、自然の風物が若々しく感じられるようになる。こうしたイメージが形作られるのは、木々の若葉のきらめくような緑の光彩によるものだろう。

 春は、冬から解放されて未来に向かって芽が吹き出すことで、希望的な感覚になる。5月の若葉は青少年が成長する時のように、外に押し出されるエネルギーを感じさせる。

 俳句の季語には、木々の若葉にちなむものが多い。例えば「若楓(わかかえで)」「新樹」「新緑」「若葉」「柿若葉」「樫(かし)若葉」「椎(しい)若葉」「樟(くす)若葉」など。それぞれの木の種類に従って、細やかな表現をするのも、日本人らしい感性である。

 若葉が目立つということは、新陳代謝して古い葉が枯れて落ちていくということである。これについても、歳時記には若葉に続いて落ち葉に関する季語の項目がある。「樫落葉」「椎落葉」「樟落葉」「松落葉」「杉落葉」などがあり、昔の日本人は自然現象の細部まで観察していたことが分かる。

 そのことを特によく示しているのが「常磐木(ときわぎ)落葉」という季語である。その説明には「松、杉、樫、椎、樟などの常緑樹は新葉の整うのを見届けていたかのように冬を越した古葉を落し始める。それらを総称していうのである」(稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』)とある。

 ある自然現象の一面だけを愛したのではなく、反対の面も注視していたということだろう。自然と共に生きた日本人の伝統文化が、それだけ深さを持っているということである。