10連休最後の6日は立夏で、暦の上ではもう夏…


 10連休最後の6日は立夏で、暦の上ではもう夏。<卯(う)の花の匂う垣根に時鳥(ほととぎす)早も来鳴きて忍音(しのびね)もらす夏は来ぬ>。佐佐木信綱作詞、小山作之助作曲「夏は来ぬ」の季節である。

 明治29(1896)年発表のこの歌が、今も愛され、「日本の歌百選」に選ばれたのは、初夏の美しい風物が盛り込まれ、この季節の清々(すがすが)しい感じが表現されているからだろう。信綱は高名な歌人、国文学者で、和歌の伝統が近代の唱歌の中に息づいている。

 <卯(う)の花の花明(あか)りする夕暮れに御田(みた)の早苗(さなへ)を想ひつつゆく>。「田植」の題詞のある上皇后陛下の御歌、昭和56年の御作である。「真白い卯の花が美しい花明りを灯している夕暮時に、御田の早苗を想いながら花の灯火に誘われてゆく御歌」と秦澄美枝氏は『皇后美智子さま全御歌』(新潮社)で解釈している。

 秦氏は白河上皇の名歌<卯の花のむらむら咲ける垣根をば雲間の月の影かとぞ見る」(新古今集)などを、上皇后陛下の御歌が生まれる伝統の素地として挙げている。

 「夏は来ぬ」の2番では「早乙女が裳裾(もすそ)ぬらして玉苗(たまなえ)植うる」と歌われている。上皇后陛下の御歌に卯の花と早苗が詠み込まれているのは「夏は来ぬ」のイメージもおありだったのではと思ったりする。

 いずれにしても、古い伝統を誇るだけでなく、それが現代生活の中に形を変えつつも生きているということは素晴らしいことだ。皇室が中心となって守られている伝統の心を大切にしたい。