「予感とは楽しき不安春を待つ」(高石幸平)…
「予感とは楽しき不安春を待つ」(高石幸平)。春の気配はまだそれほど明らかではないが、日中は少しずつ暖気が増している気がする。だが布団を干しても、まだ暖かさは短く、すぐに夜気が下りて冷たくなる。
こうした気候に先駆けて咲くのが梅の花だが、本格的な開花はもう少し先になる。梅の花は今では日本の花として定着しているが、実際には中国から渡来した花で、ことに愛したのが万葉集時代の歌人たち。
当時は梅の花を愛(め)でるだけではなく、中国の先進文化の象徴として詠んだのである。中国は海の波濤(はとう)を越えた別世界で、知識人たちのあこがれの地でもあった。中国渡来の花を愛し、漢詩や漢文を鑑賞し、その生活スタイルをまねたと言っていい。
その意味で万葉集の歌は、海外の文化との交流、そのカルチャーショックで生まれたものである。先進文化を移植しようとしているうちに固有の伝統文化を意識するようになり、その中から日本独自の歌が生まれた。
新しい文化は、こうした異文化交流から生まれるのは間違いない。現在はインターネットの時代になった。ネットの世界では言語の壁はあるが、国境線は無くなっている。
かつてのように、異国の世界を空想しあこがれる環境ではなくなっているのである。誰でも、自分のパフォーマンスをすぐに世界に向けて発信できる時代。こうした情報のグローバル化の中で、どのような文化が生まれてくるのか興味深い。