昭和天皇の御製集である『天皇歌集みやまきりしま』…


 昭和天皇の御製集である『天皇歌集みやまきりしま』を古書店で見つけ架蔵している。毎日新聞社による出版で、奥付を見ると発刊は昭和26年11月3日。まだ日本が占領下にあった時のものだ。

 スーツ姿の昭和天皇のお写真が巻頭にあり、戦後の御製79首が収められている。加えて、短歌界の重鎮、斎藤茂吉、釈迢空、吉井勇らが巻末に解説、エッセイを寄せている。装丁・題簽(だいせん)は日本画壇の重鎮、前田青邨が担当し、当時としてはなかなかの豪華本である。

 収められた御製は、終戦間もない時期の昭和天皇の御心情が吐露されたものが多く、胸を打たれる。「戦災地視察」として「戦のわざはひうけし國民をおもふ心にいでたちて来ぬ」「わざはひをわすれてわれを出むかふる民のこころをうれしとぞ思ふ」。

 「社頭雪」として「ふる雪にこころきよめて安らけき世をこそいのれ神のひろまへ」。平和への祈り、国民と苦楽をともにする御心情が伝わってくる。

 迢空は「昭和御製と宮廷ぶりの歌」と題する解説で、帝王の歌には特殊なしらべがあるとして「知識でもない、権威でもない、圧力でもない、おほどかにしてあたたかに清くしてまどかなもの」が強く響くとし、昭和天皇の御製にも明らかに表れていると述べている。

 昭和天皇の直筆御製草稿が発見され、未発表の御製もそこには含まれている。本紙で報道された御製も「おほどかにしてあたたか」な宮廷ぶりをうかがわせるものだ。