開高健が1976年に発表した「渚にて」という…


 開高健が1976年に発表した「渚にて」という一風変わった短編小説がある。著者らしき語り手が北海道へ釣りに行って出会った風変わりな男の話だ。その男は定職に就かず、町はずれの海岸に打ち上げられた流木や船材などを集め家を建てて住んでいる。

 息子がいたが、ある日突然行方不明になる。男は、息子が渚に打ち上げられた瀕死の鯨を殺したその報いだったと考え、「先生、クジラを殺しちゃいけないよ」と言って肩を落とす。

 この作品に開高が反捕鯨のメッセージを込めたのか簡単には言えない。ただ、C・W・ニコル氏のような日本の鯨文化への関心や共感はなかったようだ。日本人が海に出て鯨を獲るようになる前に、まず渚に打ち上げられた鯨を利用した歴史があった。

 開高はアマゾンやアラスカなど世界中を釣り歩き、「オーパ!」はじめ優れた釣り紀行を残した。しかしあくまでゲームフィッシングで、生業として魚を獲ることには、あまり関心がなかったようだ。

 政府は、国際捕鯨委員会(IWC)を脱退して日本近海での商業捕鯨を再開する方針を固めたという。今のIWC加盟国に、食料としても重要な鯨を保護しつつ持続的に捕獲することや、わが国の捕鯨文化の価値を認める国は少ない。だからといって脱退し、国際理解を得られないままに商業捕鯨を行えば、聞く耳を持つ人々の支持も失いはしないか。

 捕鯨支持国も反捕鯨国も、感情的な行動だけは慎むべきだ。