大阪を代表する「食」はたこ焼きだ。が、…
大阪を代表する「食」はたこ焼きだ。が、「それでいいのか?」との疑問を持つ人もいる。その一人が井上章一氏(国際日本文化研究センター教授)だ。近刊の『大阪的』(幻冬舎新書)にたこ焼きのエピソードが出てくる。氏は京都生まれ京都育ちの関西人だ。
大阪の「おばちゃん」も有名だ。特徴的な中年女性が、テレビ画面でワイワイやっている。おばちゃんという、人を見下したような言い方に反発することもない。
たこ焼きもおばちゃんも大阪文化の代表だが、「あまりに代表され過ぎている?」との疑問がそこにはある。「大阪はもっと多様なはず」との思いがこの本からは伝わってくる。たこ焼きやおばちゃんが代表的になったのはメディアの影響が大きく、その歴史も古くはない。
谷崎潤一郎の関西体験の一つは「大阪人も滑稽を解する点では東京人に劣らない」(昭和7年)という点にあった。「笑いは大阪」というのが今日の通念だが、90年近く前は「お笑いで大阪は東京に迫っている」という程度だったことが分かる。
大阪の文化は「庶民中心」に偏り過ぎているとも著者は指摘する。無論それもメディアによるものだ。つまりは東京が、大阪の「庶民文化」への偏りを推進した。
井上氏は、そうして形成された大阪文化の現状について全く満足はしていない。「まだまだ大阪には豊かなものがあるはずですよ」という関西人としての大阪への共感が行間から伝わってくる。