作家の遠藤周作さんが『沈黙』を書いた時代…
作家の遠藤周作さんが『沈黙』を書いた時代と違って、今では驚くほどにキリシタン時代についての研究が進展している。それを知ったのは、美術史家の若桑みどりさんが書いた『クアトロ・ラガッツィ』(上・下)による。
今年の秋、静岡・熱海市のMOA美術館で天正遣欧少年使節をテーマにした二つの展覧会(信長展と杉本博司展)が開催された。元になったのは若桑さんのこの著書。クアトロ・ラガッツィとは4人の少年という意味だ。
九州のキリシタン3候に教皇グレゴリウス13世のもとに4人の少年使節を派遣させたのは、イエズス会の巡察師ヴァリニャーノ。巡察師とは布教の状況を視察する監査官だ。
来日したのは1579年で30年間の日本布教を総括。これまで権力を行使してきた凖管区長カブラルの方針を覆し「われわれのほうがあらゆる点で彼らに順応しなければならない」と転換させた。
日本人は古代ローマ人がそうだったように、異教の大いなる文明人だという。彼は来日前から宣教師には日本語教育をしてから布教させるように命じていたが、カブラルはその教育システムをつくらなかった。
布教とは人間の心と心の出会い。それを知っていた「ほんとうの宣教師」と若桑さんは書いている。ヴァリニャーノが願ったのは、日本人の独自性を保ったまま築かれる非ヨーロッパ的なキリスト教文化の出現。歴史を発掘しグローバリゼーションとは何かを考えさせる著書だ。