小津安二郎監督のカラー作品『秋日和』は…


 小津安二郎監督のカラー作品『秋日和』は、タイトル通り昭和35年のちょうど今頃封切られた。戦争で夫を亡くした母(原節子)と娘(司葉子)の親子関係が中心であるのは他作品と同様だが、夫の大学時代の友人たちが娘の縁談に一肌脱ぐというのが面白いところだ。

 間宮(佐分利信)と田口(中村伸郎)と平山(北竜二)は、母を一人にしたくないと結婚を渋る娘を説得するには、まず母親を再婚させることと衆議一決。相手に5年前に妻を亡くした平山を推す。平山は最初断るがまんざらでもなく、息子と相談すると賛成だと言う。

 娘は晴れて結婚することになるが、母親に再婚の意思はなく、その話は平山を一時有頂天にさせるだけで終わる。

 しかし戦後のあの時代、夫を戦争で亡くした妻が、夫の親友と再婚するということは実際にあった。最後の将軍、徳川慶喜の孫娘で、故高松宮妃喜久子殿下の妹の井手久美子さんがそうである。

 久美子さんは福井松平家の長男、松平康愛氏と結婚するが、康愛氏はフィリピンで戦死。戦後、玉砕の島サイパンから奇跡的に生還し、親友である康愛氏の弔問に訪れた井手次郎氏と再婚する。今年7月に95歳で亡くなった久美子さんの著書『徳川おてんば姫』(東京キララ社)に綴(つづ)られた内容だ。

 明るいトーンの小津作品にも戦争の影がところどころ覗(のぞ)く。久美子さんの本と久しぶりに観(み)た小津の名作から、この時代を生きた人々のことを考えさせられた。