「胡桃(くるみ)割る力の指の馴れてきし」…
「胡桃(くるみ)割る力の指の馴れてきし」(荒川あつし)。秋は木の実が多く取れる季節である。今はクリやクルミなどが代表的だが、かつては多くの種類の木の実が収穫されて食べられていた。
シイの実やトチの実、カヤの実などである。ただし、これらの木の実を食べるにはシブ抜きなどの下処理をしなければならなかった。
そんなに時間をかけて調理したのも、食べられるものが少なかったということと、飢饉(ききん)などに襲われた時の非常食として考えられていたことがあるようだ。現在では、トチの実を入れた餅菓子を土産物にしている観光地がある。
「山の子に待たれて橡(とち)の実の落つる」(水田のぶほ)。稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』の「橡の実」の項目を見ると「秋、黄褐色になった厚い皮が三裂して、赤褐色でほぼ球形の栗に似た実が現れる。多量の澱粉(でんぷん)がふくまれているので、橡餅、橡団子などにするが、強い苦味があるのでよく晒(さら)さなければならない。古代から食用として利用されていたようである」とある。
木の実をよく食べていたといえば、縄文時代の狩猟採集の生活を挙げることができる。特に、クリなどを栽培していたという青森県の三内丸山遺跡は有名だ。クルミも食べられていたが、DNAを分析しても多様なため、クリのように人工的に栽培されていたかどうか分からないという。
作家の司馬遼太郎は、縄文時代は東北地方が世界でも有数の豊かな地域だったと指摘している。