「私は厳冬の山々も好きだが、三月から五、…


 「私は厳冬の山々も好きだが、三月から五、六月までの雪の山を、昔から好んで登った」。随筆家の串田孫一が「春の山」と題する文章で書いている。これを収めた『山のパンセ』には春の雪山が幾つも登場する。

 南アルプスの北沢小屋で過ごしたのもこの時期だったし、吾妻山麓の五色にはスキーを担いで通ったらしい。3月の山は吹雪の日もあるが、2月のようには長くは続かず、冬の厳しさが薄れる。

 作者がどこに春を感じ取ったかというと、雪の解け方であり、川の水音だった。「まず河原に坐って、その水音を聞くがいい。山肌と接している雪が方々でとけて、川の水嵩は確かに増していることが分る」。

 3月は登山シーズンとは言えないが、山好きにとっては四季がそのまま登山シーズンなのだ。季節ごとに固有の美しさと登る楽しさがある。地方にも登山愛好家がいて、地元の山々を研究している。

 少し古いが『郡山近郊の山々』は、福島県にある郡山山岳会が地元の山を紹介するために刊行したガイドブック。面白いのは雪山をたくさん取り上げている点だ。たいてい低山の里山だが、雪に覆われると独特の趣がある。

 ワカンやスキーを使った日帰り登山で、いわばハイキング。3月の例では川桁山(1413㍍)が登場する。磐梯山と安達太良山の間の山だが、「藪山のため積雪期でないと歩けないコース」。そこには雪の上をどこでも歩ける面白さ、楽しさがある。