「わが頭上最も青し秋の天」(岩崎偶子)。秋の…


 「わが頭上最も青し秋の天」(岩崎偶子)。秋の晴れた日には、その澄み切った青い光に思わず空を見上げてしまうことがある。青が一面に広がった空間は、心の憂さを晴らすような爽快感に満ちている。

 秋は人を感傷的にする季節でもあるかもしれない。「白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」(若山牧水)。この寂しさに満ちた短歌も、秋の風景を詠んだものという気がする。牧水は旅と酒を愛した歌人だが、この代表的な歌にも旅人の孤独が反映しているようだ。

 秋の空は、雲の姿を観察するのもいい。空を覆うように広がったうろこ雲、そしてゆったりとしたひつじ雲など、見ているだけで悠々とした気分になる。

 『雲は天才である』という小説を書いたのは、歌人の石川啄木。雲は何ものにもとらわれない自由の象徴でもある。啄木も雲のような人生を生きた。

 西行や芭蕉など、流浪や漂泊を旨とする文学者が日本には多い。四季の移ろいの中で、抑え切れない心の衝動があるからか。そして、旅立ちに結び付けられやすい季節は秋。実りの取り入れが終われば、あとは寂しさに満たされるからかもしれない。

 雲を見ていると、どこか未知の世界への旅立ちを夢想させられる。そういえば、衆院選に向け選挙戦が行われる中、現在の混乱した政党の離合集散を見ても雲のように捉えどころがない。さて、日本はどこへ行くのか。雲に尋ねてみたい気がする。