「天然資源を損なわない養殖産業が持続可能な…
「天然資源を損なわない養殖産業が持続可能な漁業の鍵を握っている」とは、熊井英水・近畿大学名誉教授の言葉(著書『究極のクロマグロ完全養殖物語』)。
熊井氏は約半世紀、一貫して魚類の養殖に携わり、2002年に近大研究チームのリーダーの一人として、世界で初めてクロマグロの卵から成魚まで人工育成する完全養殖に成功した。04年に初出荷してからも技術開発が続いた。
その近大が、このほど豊田通商と完全養殖クロマグロ「近大マグロ」の海外輸出を本格的に始めると発表した。まずは今月以降、香港や台湾、シンガポールやベトナムといった東南アジアを中心に冷蔵での空輸を開始する。
20年には約2000匹の輸出を目指すが、近大発の稚魚を使った完全養殖ブリの輸出も併せて実施。和食ブームで水産物需要が拡大するアジア地域で、完全養殖魚の市場を開拓するという。
現在、世界的に魚食が人気を集め、しかも日本周辺では天然の水産資源が減少しているため、新たな養殖産業の創出が必須だと言われる。こうした中、クロマグロの完全養殖から輸出まで、大学が水産関連企業を引っ張っている。
国立大学が法人化し、大学の営利追求は営為の一部となったが、それでも当の大学は「産学」の共同の利を前面に出すことに抵抗感があるらしい。このような中、事業創出・拡大の壁を突破した近大の熱意と努力に対しては「アッパレ」という以外にない。