今年のノーベル文学賞に、長崎生まれの日系…
今年のノーベル文学賞に、長崎生まれの日系英国人作家カズオ・イシグロ氏が決まった。村上春樹氏より先ではという声も一部にあったが、やはり意表を突かれた。
イシグロ氏は日本人の両親とともに5歳で英国に渡った。出世作『日の名残り』は貴族に仕える執事の物語。描かれた時代は第1次大戦後で、古き良き英国への挽歌とも言うべき作品だ。
このような実に英国的なテーマを扱った作品を、日系人作家が書き上げたことは一見、不思議に見える。しかし、三島由紀夫は『作家論』で泉鏡花の「江戸文化に耽溺した金沢人のマニアックな北方的性格」を指摘して次のように書いている。
「大体ロンドンでも、本当のイギリス人よりももっと小むつかしい典型的なイギリス人は、実は帰化人であることが少なくない」。日系ゆえにイシグロ氏は、英国文化のエッセンスを自分のものにしようと、生粋の英国人以上に努力したに違いない。
一方、2000年発表の『わたしたちが孤児だったころ』などは母親の犠牲的な愛が主題。作中に日本人の血と文化のDNAが脈打っていると感じさせる。
受賞決定後イシグロ氏は「日本人の両親に育てられ、家では日本語を話していたので、ものの見方や世界観、芸術的な感性の大部分は日本人だと思う」と語った。日本的感性と英文学の伝統が融合し、高い普遍性を獲得したのがイシグロ文学だ。受賞を機に、ファンが増えることを期待したい。