ナチスの強制収容所での体験を記した『夜と霧』…
ナチスの強制収容所での体験を記した『夜と霧』で知られるヴィクトール・フランクルが亡くなって20年。戦後長く住んでいたウィーンの住居は博物館となって、今も訪れる人は絶えないという。
小紙ウィーン特派員の小川敏記者が追慕の記事を送ってきた(「現代人の魂を癒す精神分析学開拓」小紙9月12日付)。精神科医、脳外科医、哲学者として数多くの優れた業績を残した人物だった。
フランクルの存命中に小川記者は取材活動をしていたわけだから、チャンスがあれば会うこともできただろう。が、ついにその機会を得ないままで「無念の思いを持っている」と記していた。
フランクルは学問的な業績からは想像もつかないような、ユニークで面白い人物だったらしい。それがよく分かるのは90歳の時に書いた『フランクル回想録』(山田邦男訳、春秋社)によってだ。
ユーモアとダジャレと造語が大好きで、事例を挙げているが、日本の落語家のセンスに通じるものがあったようだ。人生で最も心を躍らせたのは、ルーレット、脳手術、初登頂。どれも緊張感を伴うものだ。
手術の際に患者を催眠術で眠らせたところ、看護婦が睡魔に襲われてしまったという体験もある。岩登りは80歳まで続けた情熱の対象。初登頂したアルプスの二つのルートに彼の名前が付けられたが、これは27の名誉博士号より大きな意味を感じたほどだったという。その人生からも学ぶことの多い人物なのだ。