文芸雑誌「すばる」(10月号)の作家リービ…
文芸雑誌「すばる」(10月号)の作家リービ英雄氏へのインタビュー(聞き手は文芸評論家の富岡幸一郎氏)の中に「緊張感」という言葉があった。リービ氏は1950年、米カリフォルニア州で生まれた。
87年に日本語で小説を発表して注目された。その時作家の小島信夫が、この作品の新鮮な緊張感を指摘した。文学作品には緊張感が求められるのが当然なのに、日本の作家によって、こうした作品が書かれることは少ないとの認識が小島にはあったはずだ。
それから30年、事態は変わっていない。リービ氏の存在理由も、近作『模範郷』(読売文学賞)も含めて続いている。大げさに言えば「リービ氏が書いているから、日本文学は何とか持ちこたえている」という側面も否定できない。
緊張感を生み出すような要素が日本社会の現実にはないと断定するのは性急だが、日本人の作家たちが、今のこの日本の現実を描き出すことができずにもがいていることは間違いない。無論、才能がないとか怠けているとかいった話ではない。
日本文学研究者でもあるリービ氏はかつて「カリフォルニアの青空は日本研究となじまない」と書いた。生まれ故郷と現住地日本の風土との強烈なギャップが、氏の作品の出発点の一つであるらしいことは分かる。
ことさら日本人であることを主張する必要はないが、日本人作家によって発掘された現実に対応する緊張感に満ちた文学作品を期待したい。